「西の城か、そこだったらオレも途中まで一緒だね。そうだ、この地図を見て。」
サファエルはテーブルの上に、地図を広げた。
「この世界には2つ大陸があって他には3つ島国。西の大陸に東の大陸、2つのほぼ中間
のジパング、そして北、南の島。何のために行くかはわかんないけど、オレも付いて行く
よ。こっち側の話だけどね、この世界には四天王が東南西北に1人ずついるんだ。もちろ
ん西にもいるわけだ。ちなみに、クラル君達の捜すライエルって奴は南の四天王だよ。」
サファエルがニコニコ言った。ザイスィがギッとサファエルをにらんで言った。
「詳しいですね。もう1つ知ってるでしょう?西の四天王の名前を。」
「『モルゲニウム』でしょ?冒険家の情報を甘くみないでほしいね。」
笑顔を崩さず、サファエルが答えた。ザイスィはクスッと笑って言った。
「今はサファエルですよ。」
サファエルをのぞく3人はハッとした。当のサファエルも目をまぁ−るくしている。そし
て、笑った。
「アハハ、君はおもしろい事言うね  オレがその四天王だって言うのか。う〜ん、そりゃ
同名だね。」
軽く受け流している様だ。しかしザイスィはにらみっぱなしだ。
「サファエルはそんな奴じゃない。人の友達をバカにするのはやめてもらいたい。」
ルーファウスがザイスィをにらみかえした。ザイスィはにらむのをやめて、席を立った。
「ザイ!」
クラルは後を追った。
「男ってムズかしいわね。」
アンはボソっと言って、残っていたポトフを食べた。

「ザイ、機嫌悪くしたのか?」
カベにもたれかかっているザイスィにクラルは声をかけた。
「いや…でも、気をつけた方がいいと思いますね。」
「…考え過ぎじゃないかな…。」
クラルは広がる青い空を仰いだ。
「心の片隅に止めておいてくれたらいいですよ。」
ザイスィはクラルの肩をポンと叩いて酒場の入口に向かった。前でアン達が待っていた。
「待ってよ!」
クラルは歩き出したザイスィを慌てて追いかけた。


  その夜はルーファウスの家に泊まった。あの後中々雰囲気は和まなかった。
「気を悪くする事を言って悪かったですね。」
ザイスィが家に着いてそう言った。サファエルはあまり気にしていた様子もない。
「いいよ。全然気にしてないよ。」
一応和解はしたらしい。夕食までにはかなり和んだ。

「ねえクラル、私、船に乗りたいわ。」
「船!?そんなの乗らないよ?」
よくはわかっていないクラルだったが、地図を見て、船に乗る事はないと思ったのだ。実
際は南は島国なので、どうしたって船を使うことになるのだが。
「え−っ…。」
アンは思いっきりブーイングをとばした。サファエルがニコっと笑って言った。
「船でまわる事も出来ますよ。南へは、どうせ船だけどね。そう、それですよ。クラル君
達はどうしますか?オレ達は西に行くけど、ザイ君の目的、クラル君、アンちゃんの仇は
南。まあ…そっちで考えておいてよ。明日の朝にでも言ってくれたらいいから。」
そう言ってサファエルは、部屋を出て行った。
「どうしよう…。」
クラルとアンは悩んだ。今まで、西へ行けばいいと思っていたのだ。

  みんな寝静まった真夜中。ルーファウスの家から人が1人出て来た。サファエルだ。そ
の足で家の裏にある森の中に入って行った。森の中間部分には広場があった。そこで止ま
ったサファエルは、ある者の名を呼んだ。
「リーウェル、いるんだろ?」
ガサガサと、サファエルが呼んだ方の茂みがなり、子供が1人出て来た。
「ありゃ…バレてた?」
「当り前だ。」
リーウェルはトコトコとサファエルに近づいて来た。
「サファエル、昼間の姿もいいね。」
「男のお前に言われてもな。」
サファエルは苦笑した。リーウェルの前では昼間の姿ではなく、四天王の姿をしている。
「ザイスィ…あの男には少し驚かされたが、知ってて当然だな。南のライエル殿の弟さん
だ。」
「へぇ〜、あの兄ちゃんがか。でも。」
リーウェルは少し笑いを含んでサファエルを見た。サファエルも見返し、言った。
「ああ、邪魔だ。出来れば抜けてもらいたいものだが…。」
やっぱりね、って顔をしてリーウェルは言った。
「難しいんじゃないかな。それよりあの女っぽい兄ちゃと姉ちゃんはどっちかが…。」
「ああ、宝珠の持ち主だ。よくわかってるな。」
リーウェルは誉められてテレた。更に話を持ち出した。
「んであの、サファエルと一緒に喋ってたのがラァちゃんの兄ちゃんだよね。」
「そうだ。全然変わってない。」
フッとサファエルの表情が和らいだ。思わずリーウェルは見つめてしまった。
「?」
「えっ、いや、何にもないよ。(あ−、見とれちゃったよ…。)」
自分でも顔が赤くなるのを感じた。
「おかしな奴だ。とりあえずお前は城に帰るんだ。」
「ヤダ。」
プ−ンとそっぽを向いた。サファエルは溜め息をついた。
「ダダをこねるな。」
「じゃサファエルとラァちゃんの兄ちゃんだけのメンバ−になったら俺入ってもいい?」
少し考えていたが顔をあげてリーウェルを見ると、目を輝かしてこちらを見ている。
「わかった。しかし、その時だけだからな。」
「うん。じゃ俺隠れとくね  」
そう言ってリーウェルは消えた。そしてサファエルもルーファウスの家に向かった。

                                     *

  再び、悪魔の会話。と言っても南の話だが。

  南の四天王ライエルは、その長い髪を後ろで1つにし、暗く重そうな石詰め部屋の窓か
ら暗く沈んだ闇を見ている。
「ライエル様。少しいいでしょうか?」
「…。」
ライエルを入口から呼んだ女はいかにもと言った雰囲気の女性で、この城でただ1人ライ
エルを子供の頃から見てきた者である。ライエルは彼女をその切れ長い目で見た。
「宝珠の主達が西にいるそうです。」
「…西…か。」
また目を外にやり、言った。
「…あの方からの伝言です。‘宝珠を奪りに来い’と。」
ライエルは何も言わないで外を見ていた。女はそんなライエルを見て何も感じないかの様
に見えた。そしてそのままライエルの部屋から去って行った。
「…兄さん。」
小さな声で叫ぶ様に目を細め言った。髪をほどきライエルは、南を出て西へ向かって行っ
た。その髪を結っていたのは、ザイスィと同じ物だった。

                                     *

 その頃クラル達はルーファウスの家で寝ていた。ザイスィは人知れず夜の海を見ている。
そこに、サファエルが来た様だ。
「どうしたんです?」
「…ああ、サファエルさんも眠れないんですか?」
いつものザイスィだ。サファエルは近付いて来て、
「眠れないと言うより、貴方と話がしたかったんですよ。」
「何か?」
「弟さん…元気かと思いまして。いやぁ何、その人とは昔から何かとありましてね。」
「…僕には兄はいますが、弟はいませんよ。それに昔からってどういう事です?」
「クスクス…失礼。ジョーダンですよ、ジョーダンvそうですか…お兄さんいらっしゃっ
たんですねェ。」
「ええ…まァ。」
サファエルは家の方に帰ろうとしたが、少し振り返って言った。
「ああ、気を付けた方がいいですよ。ルゥはかなり貴方を警戒していますからv」
文末にvマ−クだが、顔は真剣だった。
「…どうも。」
ザイスィも真剣な声だったが、その顔は暗すぎてよく見えなかった。
「もうそろそろ来るかな。兄さん。」
一言そう言ったのは、おそらく誰にも聞こえなかっただろう。

                                       *

  クラルは気持ち良さそうに寝ていた。そこに1人の男が立っている。男は手に持ってい
る3m近くある長い剣をクラルの頭上に振りかざした。その時クラルがパチっと目を覚ま
し、ベッドから転げ落ちる様によけた。
「いってェ−!誰だっ!!」
「もう忘れたか?南の悪魔(四天王)ライエルだ。」
「ライエル!!?ゲ。」
ライエルはそれ以上何も言わず、クラルに襲いかかってきた。風で空気も裂ける様だ。
「クラル!?何があ…っ、きゃア!!」
アンが大きな物音にクラルの部屋まで来て部屋の状態を見てびっくりした。
「アン!!来るな!ヘンタイさんが来てるぞ!!」
「ハァ!?何言ってんの!!誰が…!!」
アンはライエルの冷たく闇に潜む様な赤い瞳を見てハッとした。
「だ…誰!?」
「ヘンタイさんだ。」
「違うわよ!!」
クラルとアンのボケ、ツッコミ。もっともその気なのはクラルだけだ。ライエルはそんな
のおかまいなしにアンを撃とうとした。クラルはハッとして、ライエルに飛びついた。
「やめろ!!」
「…どけ、邪魔だ。」
「アン!早くルゥを呼んでこい!はなれの部屋だ!!」
アンは彼の冷たい目に体を硬直させてしまって中々動けなかった。
「アン!!じゃあ逃げろ!!」
「…クラル・ギル。お前は何故こんな事をする。‘何の力も無いくせに’。」
見下げて言った。
「〜っ!!うるせェよ!!」
クラルの気合いか2人の周りは大きな音と共に崩れた。‘力が無い’という言葉にカチン
ときたのだ。
「お前には、カンケーない!!‘壊す事しかしねェ奴’には言われたかねェんだよ!!」
クラルはライエルを弾き飛ばし、父から譲り受けた宝棒を手に取った。ライエルは目の色
がおかしかった。まるで今ここにいる人ではないかの様だ。
「お前が壊したもんのケリつけさせてもらうゾ!!」

クラルとライエルは激しく撃ち合いをしている。その場にかけつけて来たルーファウスが
「…何してんだ。」
と不審の色をあらわにした。アンは何も言えなかった。ただルーファウスを見て座り込ん
だだけだ。クラルがライエルの顔に傷をつけた時、やっと撃ち合いが終わった。
「…くそ!!」
「…。1つ尋く。どうして西に行く。あなたは南の…。」
「あ?何言ってんだよ!俺の勝手だ、このハカイシン!」
「…そうだナ。」
「何わけのわからん事言ってんだ!!石とかそんなのどうだっていいんだよ!!そんなの
お前しかキョーミ持ってね−んだ!!」
「宝珠の守護者…お前は西のではなく南。何故南に来てくれない…。」
ライエルの手の上で何かが光っていた。クラルの方にそれを投げ付ける様に飛ばすと、ク
ラルは爆発と共に吹っ飛んだ。
「クラル!!」
「…っ。」
血は額を赤く染めた。ライエルは倒れるクラルに剣を突きつけた。
「私も…石などどうでも良いのかもしれん。」
「…?」
小さな声で言った。クラルには聞こえなかった。ライエルは顔を近付け、
「何故助けてくれない…。」
と、彼にだけ聞こえる様に言った。ライエルも血だらけだった。まるで目から流す涙の様
に血は滴り落ちる。
(冷たい目なのに…何て悲しそうなんだろう…。)
クラルは、その目を忘れられない程に見入った。
「…南の宝珠は必ず頂く。」
ライエルはそれだけ言うと、クラルから離れ、赤い光の中へと消えて行った。
ザイスィはそれを見ていた。その目はライエル以上に恐ろしかった。

  クラルは、自分にだけ心の中を見せる様なライエルをただの悪人としては見れない様子
で座り込んでいた。
  アンはクラルの頭に包帯を巻き付けている。クラルは自分の手に付いた血を眺めた。そ
してライエルの流した涙の様な血を思い出していた。
(本当に、泣いている様に見えた。)
クラルはそっと、目を閉じた。
                                       
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