「お頭! 大変です!」
ジパングのとある場所で、とある集団は現在、かなり困っていた。その集団はジパングの
処々から人をさらってき、地下の牢屋に閉じ込めるという事をしていたのだが…どうやら
さらってきた者の中にとんでもない連中が混じっていたらしく、現在ある2人が地下で大
暴れしているのをどうしたものかと、一人の家来が飛び込んできたのだ。
「何よぅ! 今お、化、粧、中!!」
「それどころじゃァ…あ゙」
お頭と呼ばれた化粧をしていた人物は、正座から立ち上がった。立ち上がってみると中々
の大男で、2mはありそうだった。が髪は和風に結ってあり、顔にも白粉が塗ってあり、
気持ち悪い事この上無い。しかも声は重厚な感じで低い上に、中々ドスがきいていた。
「このアタシを立たせる程の重大事が、本当に起こったんでしょうね。」
「い、ひェ、いや、その…子供が2人、暴れてて…その…。」
「子供ォ〜? そんなの、アンタ達で何とかしてよ、もうっ!」
そう言うと彼はお白粉片手に正座し直した。既にその厚みは数cm以上なのにも関わらず。

                                     *

「「ウラウラウラ−!!」」
アラスはスピア片手に、リーウェルは剣を持ち、絶妙なコンビプレイで侍達は次々と倒れ
ていった。
「アラス、殺してないよね−?」
「当り前だよ。天使に見つかったら厄介なコトになるし、つまんないよ。」
「「さァ、次、次〜!」」
年の若そうな者同士妙に息が合うのか、侍達には手も足も出なかった。そして、2人が暴
れているせいで牢獄の壁はどんどん崩れ、そして脆くなっていく。
「あっははは! みんな弱〜い!」
「オレ達強〜い! …リーウェル!」
侍達が2人の周りに輪を作り、襲いかかってきた。
「よし、さっきのヤツだね! せ−の、」
2人は、それぞれの武器を持ち直した。
「「必殺・コンフュージョンアターック!!」」
いつの間に微妙な名つきの合体技まで作ったのかはわからないが、2人は互いに素早く、
全く反対に動き回り、敵をやたらに振り回すという息のあった攻撃法を披露した。
「いぇ−い、ぶっつけ本番なのに成功成功♪」
「やるじゃん、リーウェル。人化姿でそれ程動き回れるってコトは、よっぽど強い奴に力
貰ったんだ。」
「アラスだって、途中精霊使ってたじゃん。すごいよ、魔族には使えるハズないのに。サ
ファエルと一緒だv」
楽しげに言うリーウェルだったが…―サファエル。その名を聞いて、アラスの顔色が突然
に変わった。目を見開いてリーウェルの方を見る。
「今…何て、言った? サファエルって、あの、西の新四天王の名前…!?」
アラスは魔界の西に1年前は住んでいた。それで、西の四天王の事は他の四天王のことよ
りよく知っているのだ。名前など当り前に知っている。
「あ…い、いや、あのその、ほ、ほら、同姓同名の別人だよ! アハハ…」
「同姓同名…? じゃ、姓は? 四天王の方は姓なんて公表されてないけど」
意地悪っぽく尋く。リーウェルは相当慌てている様子だ。
「えっ! …姓は…はは、え−っと…俺にも、隠してるんだ!」
「それなら余計に怪しい。…!」
アラスの顔色が今度は青く変わり、リーウェルは何事かと後ろを向いた。すると…世にも
恐ろしいという表現すら超越した何かが、そこには立っていた。

 アラスとリーウェルの真後ろに立ったのは、ジパングの異人狩り集団を統括しているお
頭だった。白粉が少し顔から落ちる。
「うえーっ!! な、何だよこいつー!!!」
「ふいーっ、こないだの熊女よりどぎついー!!!」
2人してあまりの迫力に腰が抜けてしまい、その場に座り込んだ。
「どーしよアラス〜、こ、こここここー!」
「恐いよ、オレだって!! わー!! 来るなー!!!」
「…坊達、オイタはいけないわねぇv」
お頭はそう言うと、同時にゲンコツを2人の頭におみまいした。2人は一瞬で気が遠くな
り、バタンと倒れた。
「お頭、ありがとうございやす。して、この者達は…。」
「一番深い古井戸にでも放り込んでおいて。まだ殺すのはダメよんv」
お頭が笑うと、顔から白粉の粉がボロボロと落ちてきた。

「ありゃま。2人して人間に10倍返ししてたはずが、今度は古井戸行き? ホント、情け
ないなぁ〜、クスクス」
呑気なことを人に見えない所で言ったのはあの、光の珠を連れた謎の少女だった。少女は
何処か神妙な顔付きで、辺りを見下ろしている。
「ま、これぐらいの干渉なら見逃してもいっか…人間の方から手を出したみたいだし。…
何か四天王の方も、面白いことになりそうだし。」
そのまま少女は、光の珠と一緒に消えた。
  そしてアラスとリーウェルは命令通り、古井戸に叩きこまれた。

                                     *

「あ〜! もう! リーの奴、どこ行きやがったんだ!!」
クラルは再び1人になっている。牢獄から出られたと思ったらいきなり置き去りにされ、
頭の中で言い様の無い悔しさ(悲しさ)でいっぱいになり、頭の悪い(?)彼には処理し
切れず、苛々している。最近そんな事が多いので。
「それにしてもここは迷路かよ、出口どこだっつ−の!」
1人でわめいている。

「ルゥの奴…心配してるかな。せっかく1人にしてくれたのに…。」
何故か彼のことが頭に浮かんだ。今まですっかり忘れていたが、暗い道を1人で歩いてい
ると、つい余計なことが頭に入る。いきなり静かになった。そんなこと考えるときりが無
いのだ。ピタリと足を止め、懐の指輪を出した。
「俺がもっと強かったら良かったのにね…。」
指輪の中の誰かに話しかけた。暗い中でも指輪は鮮やかに光っていた。落ち込んでいると
誰かの足音が聞こえてきた。ゆっくりだが、こちらに近付いて来る様だ。クラルは、一瞬
どうするか迷った。敵か、もしくはリーウェルか、暗闇の中ではわからない。
(ここは1本道が続いていた。隠れる所もないナ。)
マイペースなのか、落ち着いているのかわからないが、とりあえず天井で誰かが通り過ぎ
るのを待ってみることにした。
「く…! 俺はサルじゃね−んだゾ!」
とか何とか言いながら、普通は出来ないことをしている。足音はどんどん近付いてきてい
る。だんだん人影が見えてきた。
(手がもたナイ…ちくしょ−、こ−なったらコーゲキして…。)
結局暴れるのだ。人影が自分の1m程手前まで来ると、クラルは指輪を握りしめ、パッと
天井から離れて落下した。うまいこと体をひねってその人影に向かって、
「ファイヤー!」
と訳のわからないことを言った。確かに火は“ファイヤー”だが、正しい宝珠の使い方で
はないだろう。というより、使い方などどうでもいいのかもしれないが…。

「うわァ! 何しやがるクラル!」
「へ?」
物凄い火が飛んだと思ったら人影がはっきりして、ルーファウスの声が聞こえた。彼の方
は、“火”でクラルに気付いた様だ。
「ルゥ! 何だルゥだったんだ−! 久しぶり!」
「あのナ…。」
クラルのペースには少々ついていけない様だ。その後2人は、自分達にあった事を話し合
った。ルーファウスは、ラァーファをさらった者のことは言わなかったが。
「ふ−ん。同じ様な手口だね。」
「同一犯だろう。それにしても捕まえたわりには、すぐ逃げれるようになってるな。まァ
俺の方は、一緒にいた変なガキが番から鍵を奪って開けてどっか行ったんだけどな。」
「へー、ルゥも? 俺んトコも妙な奴が鍵開けて、そんでリーウェル連れて、どっか行っ
ちゃったんだ。でも不用心だよネ、ここの奴ら…それだけ出口が見つかりにくいのかも?」
「まァあな…それにしても、この暗さは何とかならないのか…。」
クラルは耳を大きくしてその一言を聞くと、ニターと笑った。
「ハハーン。さては暗いのがおキライ? お兄さん。」
「なっ!  そんなコトない!!」
「いや−ね−、誰でも暗い所ってダメなもんやしィ−、気にすることあらしまへんでェ!
けど、あんさんがねェv」
「何語だ貴様!!」
「…フフフ、テレなさんな、テレなさんなv  これは秘密にしといたるさかいv」
ポンポンとルーファウスの肩を叩いた。
「あのなァ−!!」
そう言いながらもルーファウスは、元に戻ってきたクラルに安心をしていた。(いや、激
しくなっていて19歳とは信じられない。)ともあれ、気分は良い方ではなかろうが…。
                                     
                                     *

〔ニャーン〕
〔何だ? 最近よく見かけるな。傷は大丈夫か?〕
可愛い鳴き声をあげていた猫は、少年に抱き上げられた。懐かしい風景だ。

「オイ、起きろってば、リーウェル。」
「んにゃ…。」
夢は、横にいたアラスによってかき消された。アラスも先程気づいた様で、横にいたリー
ウェルを起こしにかかったのである。
「んにー…あーアラス、おはよ。」
まだ夢見心地な頭をブンブン振って、アラスの方を見た。
「おはようじゃないよ。大丈夫?」
頼りなさそうな相方を見てアラスは溜め息をついた。最もアラスの方は実は、先程までの
事…リーウェルに会うまでと古井戸に叩き込まれるまでのことを何故かおぼろげにしか覚
えておらず、頼りないのはお互い様か…と思った。こういう事は、アラスにはよくある事
だった。リーウェルが誰かがわかるのが不思議なくらいだ。
「ところでさ…どーしてオレ達、こんなとこにいるんだっけ?」
それとなく尋ねてみる。自分で思い出そうとしても、まるで頭の中に霧がかかったように
ぼんやりしてしまうのだ。
「そーだね。…え〜と、アラスに会って、牢から出て、思いっ切り暴れてて…うげ  イヤ
なもん思い出しちゃった。」
リーウェルが今までのことを思い出していると、思い出したくないものまで思い出してし
まった。そればかりは流石に忘れられないアラスも思わずうなずいた。2人は、その思い
出したくないものを振り払うかの様に頭をブンブン振った。
「も−いい、忘れよ。オレが悪かった。」
「うん。二度と思い出したくないや。」
記憶の混迷はとりあえず、放っておくことにした。今は忘れようと気楽に考えると、不思
議とそんなに気にならなくなったのだった。

  2人は暗い井戸の底から、遠い空を見上げた。リーウェルがよし、と喝をいれる。
「とりあえず出よーぜ。深そうだけどね、この…井戸…かな?」
「まァどこかは深く考えずに。オレはコウモリになれるし、お前は夜目きくだろ?」
コクとリーウェルはうなずいた。
「んで、お前は変身出来る武器を持ってる。それをロープにして…」
「うん、わかった。」
リーウェルの持つ武器は、持ち主の意志により変化する、魔物なのだ。いつもはキーホル
ダーの様にしてぶら下げている。これもサファエルに貰った物の1つだった。
「『レガヴィス』、頼んだよ。」
キーホルダーになりすましていたレガヴィスは、光を放ってロープに変化した。
「それじゃ、持って上がるね。」
アラスはコウモリに変身し、ロープをくわえ飛び上がった。

                                     *

「武器を捜さないと。」
出口をめざして歩いていたルーファウスとクラルだが、不意にルーファウスが言った。
「どうやってさ。」
いきなり何だという顔をしてクラルはルーファウスを見た。クラルは小屋に武器を置いて
きてしまったし、ルーファウスは連れてこられた時に奪われていた。
「クラル、槍…使えるな。」
「へっ!?」
角まで来ると急に、止まれとルーファウスが手で指示をした。
「どしたの?」
「そこに兵が2人いる。まぁ待ってろ。」
「ちょ…
止めようとしたが遅かった。素早く飛び出したルーファウスは、もう兵を倒していた。
「あちゃ−…。」
のびている兵達を横目で見ながら、ルーファウスに近付いた。
「ムチャするなあ。」
「そうか? ほら槍。」
ポン、と兵の持っていた槍をクラルに投げ渡した。
「サァが心配してんじゃないのかと思ってさ。」
歩き出しながらルーファウスは言った。
「サァってさ、ルゥの幼馴染みだよね。どれくらいから一緒だったの?」
う〜んと唸りながらルーファウスが歩いていく。クラルもパタパタと追いかける。
「3歳ぐらいからかな…俺達が村を出たのが10歳の時だから…?」
「ん?」
急に立ち止まったのでクラルは振り向く状態でルーファウスを見た。
「この部屋から鼻歌が聞こえる…。」
「のぞいてみよ−よ。」
扉の前に2人は立ち、そ−っと扉を開けた。その先には、決してマトモな神経の持ち主が
のぞいけていけないものが、あるとも知らずに…。
                                        
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