「改めて自己紹介でもするかのう」
電柱から幻次を助け出してから、頼也はそう切り出した。
「んじゃ、俺から?  俺はクラル・ギル。ピッチピチの19歳で〜す♪」
クラルの紹介を聞いて、本人をのぞく全員がこう思った。
(ホントにこいつは19歳か?)
当の本人は全く気づいてない様だ。コホンと1つ咳払いをしてルーファウスは言った。
「俺はルーファウス。16だ」
「オレはサファエル。ルゥの幼馴染みで16。一応冒険家やってま〜す」
「俺はリーウェル。13歳でサァ兄ちゃんの弟で〜す♪」
ルーファウスとクラルはびっくりしたが、疑うことなく信じた。何となく納得出来る。
「次はわしらじゃな。わしは烏丸頼也。20歳で公家をやっておる」
「俺は山科幻次。21で武士だ」
「オレはアラス。一応…13歳に見えたら大丈夫かな?」
アラスだけ訳のわからない説明だったが、一通りの紹介は終わった。すると
「いや〜ん、私を忘れないで下さいよ−。ついでに起こして〜」
電柱がゴロゴロ辺りを転げ回っている。サファエルがげしと踏みつけて、チャックを開い
てやる。
「あ−、助かった。さ〜すがサファエル様」
「サファエル様!?」
サファエルとリーウェルをのぞく5人は叫んだ。出てきたシーファーはとりあえず自己紹
介をした。
「私はシーファーといいまして、歳はヒ、ミ、ツです。遊び人やってるんです サファ
エル様には命を助けてもらい、それから様付けで呼んでるんですよ」
いつもの様にニッコリ笑って説明した。格好からしてそう見えるので全員納得した。シー
ファーの自己紹介の後、ルーファウスは少し気になったことをサファエルに尋いた。
「ところでサァ、どうしてリーウェルが弟だって教えてくれなかったんだ?」
「え−、そりゃあ…行方不明になってた手前、リーウェルに悪くて」
「でも仲直りしたんだろ? あ、そっか−、こないだのケンカはそれだったの?」
いつの間にかクラルも話に加わっていた。
「サァに弟がいたなんて初耳だけどな」
「それはそのー…」

 噂の当の本人は、先程の糖種ショックが甦ってきたのか、少し顔をひきつらせていた。
実際糖種は、糖良に似てはいるものの糖良以上だった。以上というのはもちろんグロテス
クさがである。頼也と幻次はアラスから糖種の話を聞き、溜め息をもらしていた。
「きっと頭のネジが2、3本緩んでおるのじゃ。可哀そうでもあるのう」
「何言ってんだよ、選民思想のカタマリじゃね−か。ほんと、同じ武士として恥だぜ」
「侍ではなかったのか?」
「どっちでもい−だろ、別に。そんなこと言ったら御家人、旗本、その他色々…お? お
いアラス、ど−したんだよそのケガ…」
急に話を振られ、アラスは少し考え込んだ。
「本トだ…オレ、全然覚えないのに。いつ出来たんだろ、こんな傷」
よく見ればいたる所に、包帯が巻かれていたアラスだった。
「さっき穴に落ちた時しばらくオレ、気絶してたみたいだからその時のかも。リーウェル
が手当してくれたのかな?」
「ほー。しっかしよーお前、自分のケガは治せないんだな」
「そうだね、精霊でも気でも、自分のケガは治せないみたいだ…」
言いながらアラスは自分でも妙な感じにとらわれていた。何かが―…違う様な気がする。
シーファーを見て更にそう感じた。が、考えようとすると頭が痛くなるのでやめた。

                                     *

 サファエル達を追いかけて見失った糖種は、糖良の言っていた種良なる人物の所へ来て
いた。彼こそがこの地下2階の担当者だ。
「やだぁ、何の用よう糖種姉様。地下2階はあたしの部屋だって前も言ったじゃな−い。
すぐ美容温泉入りにくるんだから〜。地上にも作ればぁ?」
「黙って聞きなさい。ここに何人か、落ちてきた者がいるの」
「あらま、ここに?糖良、サボったわね!」
「捕まえるのよ。捕まえたら部下にする奴はのぞいて‘公開浄化’を施行するわ。いいコ
ト? とりあえず美少年隊に追わせてはいるけど」
種良は身をくねらせた。おぞましさが空気となってその場に流れた。
「う−ん、わかった〜ん  うふふふふ」
その2人の会話を見ている者がいた。ずっと姿を消しているエンジュラだ。
「…ひどいよ、異人だからって理由だけで皆殺し? どうしてこの国の人だけが優秀とか、
そんなことをあなた達が決められるの」
しかしエンジュラは手を出してはいけない。これは悪魔ではなく、人間がやっている事な
のだから。エンジュラは既に死んだ身で、今は天界に住む者だ。この世界の者ではない。
「…」
悔しさとはがゆさと、そして空しさをエンジュラはかみしめた。

                                     *

 地下に落とされバラバラになった者は全員、何とか合流を果たした。しかしサファエル、
リーウェル、アラスは一番上の糖種に密かに気に入られている。逃げた3人を捕まえるた
めのある部下達を糖種が放ったことを、今の一行は知る由も無い。
「あ−、階段だよ、兄ちゃん達」
地下2階の大迷路をさまよい続けた8人は、ついに上りの階段を見つけた。
「じゃあ安全確かめに行ってくるね」
リーウェルは階段の方に走りよった。

「誰もいないよ〜」
安全を確認したリーウェルがこちらに手を振った。すると急にリーウェルが宙に浮いた。
「うわぁ−!」
「こいつらじゃないの? お頭が言ってた奴ら」
リーウェルをぶら下げ、リーダーらし美少年が階段から下りてきた。それに連なって5人
程後からついてくる。後ろから来た5人も美少年だった。クラル達は、度肝を抜かれた。
(何だこいつら…)
全員そう思った。
「さっきの奴らと、随分なギャップだなぁ…」
茫然と呟くクラルに、ルーファウスが無言でうなずく。
「君達だね? 糖種様達の崇高な使命を邪魔立てし、この迷宮をさまようのは」
「は…はぁ」
返答してやった親切な奴は、いつもの気勢をそがれたクラルだ。

「まずは自己紹介しようかな  僕は美少年隊リーダー月夜」
月夜と書いて「つくよ」と読む…とは、誰も聞いていないのに本人からの説明だった。
「私は妖」
「俺は美登利」
「ボクは真夜」
「オレは蘭」
「ぼくは利子」
「そう! 僕らは糖種様専属守護美少年隊!」
ポーズを決めて美少年隊なる奴らはキラキラと光り輝きながらカメラ目線で立っていた。
6人揃って自己陶酔している。リーウェルはまだぶら下げられたままだった。
「下ろせよ−、ブサイク隊」
ぶら下げられたままが嫌だったので言った科白が、不幸を招いた。
「今、何て言った? 僕らより君の方が…―!」
「どうした? 月夜」
訂正させようと、目の前までリーウェルを持ってきた月夜の科白が途中で止まった。リー
ウェルは、何をされるのかわからないのでとりあえず防御体勢をとった。が、月夜は…。
「可愛い」
そう言ってリーウェルを抱きしめた。
「うわ−っ! たっ、助けてサファエル−!」
シーファーはチラッとサファエルの方を見た。青筋が立っていた…。
(怒ってますよ〜…あの子、可哀そうに…)
残り5人も先程から圧倒されており声も出ない。幻次はかろうじて頼也に小さく言った。
「あいつら変だぜ…」
「…そう言ってやるな…」
「そっ、幻次も変だから」
「何っ!?」
アラスも会話に加わり、さりげなく幻次をいじめた。お頭よりずっとマシなので元気だ。

「また始まった、月夜のロリコンが」
「ホント、可愛いものには目ないもんね」
5人は月夜を横目で見ながらボソボソ喋った。その時月夜がリーウェルにキスをした。
「んー!?」
「や〜ん  やっちゃった〜」
と同時にブチ、と何かがキレる音がした。全員が一斉にその音の聞こえた方を見た。
「サっ、サファエル様−!」
シーファーが止める間も無くサファエルは、ツカツカと月夜の方に歩いていった。
「(キっ…キレてる…) あ−、誰か、止めて下さい!」
シーファーが慌てふためいているので、ルーファウスは止めに入ろうとした。嫌な予感も
していた。しかし…歩みよったサファエルはバッとリーウェルを月夜の手から奪った。
「リーウェルはオレのだ」
堂々と問題発言。そして2人の間で火花が散った。シーファーは心底ホッとしていた。
(良かった、本気を出さなくて。やっぱり…お強いですね)
ルーファウスもホッとした様に肩の力を抜いた。すると、残っていた5人が口を開いた。
「私達ともお相手して戴きましょう」
「マンツーでいけるな」
「じゃ、俺は〜…あの青い髪のチビ」(チビ…って、青い髪オレだけだっけ…)
「ボクはあの茶髪の子」(俺か…?)
「オレは残ってる異国の子」(俺? …だよね、ルゥはもう出たし…。)
「ぼくはあの公家さん」(戦うのか…やじゃのう…。)
「では私はあの侍を…」(何でシーファーを選ばねぇんだ?)
指名された5人は幻次と同じ意見を心の中で思った。よく見ると白旗をシーファーは笑顔
で振っていた。
(逃げたな !!)
全員の心の声。
「さぁ、いくよ!」
各々でシーファーを恨んだが、美少年隊がかかってきたので神経はそちらに移った。

 激しい戦いの末、ルーファウス達は何とか勝った。美少年隊もかなりの強者達だったの
だ。友情(?)が芽生えた奴らもいた。
「君は強いね、女顔なのに。…気にいったよ…」
「いや−、それ程でも〜」
クラルと蘭の会話である。と言っても、クラルはその意味に気づいていない様だが。後、
一番被害にあったのは月夜だった。サファエルにさんざん攻撃されたのだ。
「サファエル…もしかしてやいた?」
「…少し…な」
リーウェルが止めに入らなかったら、月夜はもっとボロボロだったかもしれない…。何は
ともあれ美少年隊を倒した8人は、地上への道を急ぐことにした。

                                     *

「も−イヤだ!ど−してこんなに気持ちの悪い奴ばっかりに出会うんだよォ!」
アラスのゼツボウの叫びは大空に響いた。地下牢の人々を逃してから見つけた階段で、地
上に出た8人を上から順に、糖種、種良、糖良が待ち受けていたのだ。
「アラス、落ち着いてよ〜●☆□◇△×  ◎×◆〜!」
「−! …リーウェル、お前も落ち着いて気配を隠せ!」
サファエルが小声でリーウェルに警告した。何で? と思いつつリーウェルが急いで指示
に従った直後、エンジュラが姿を現した。
「フェンリャ…」
「良かった…アラス、無事だったんだね」
何だかんだでアラスに会えていなかったエンジュラは、心底安心したように、苦い顔で微
笑んだ。そして、ある事に気付いた。
「…宝珠の持ち主が…3人揃った。すごい…」
「わ−。この子誰? ねぇ、ルゥ」
興味津津なクラルに、ぼーっとしているルーファウス。
「浮いてる…羽も生えてる…。変な奴だ」
(ルゥ…俺もいちお−飛べるんだけどナー…)
クラルの心の叫びに、エンジュラの声が重なった。変な奴と言われ、可愛く怒っている。
「失礼なの! …あなたが『虹白の宝珠』の守護者の人?」
「俺達のことを知っているのか?」
「あんまり…私、天使のエンジュラ。一応宝珠の守護者のことは少しだけ知ってるの」
「そうなのか」
魔族とは敵対する種族である天界の存在、天使。サファエルがリーウェルに気配を隠せと
言ったのは、とりあえず自分達の魔の気配に気付かれないよう、用心しての事だった。

「ちょっとォ! またまたシカトォ!? 誰と喋ってんのよ!」
オカマ3兄弟が揃って叫ぶ。この間から幾度となく無視されているので、キレかけている
様だ。クラルが不思議そうに尋く。
「え? お前らにはこの子見えないの?」
エンジュラが簡単に、天使は天界人か魔族の血を持つ者じゃないと普通は見えないことを
説明した。魂が見えるとか特別な能力を持っている者や、死期が近い者は例外に属する。
「じゃあ…俺とラァは普通の人間じゃないのか…」
ルーファウスが、大方わかっていたことを少し悲しそうに確認した。
「あれ−? オレとリーウェルにも見える、不思議だね−」
「本トだサファエル〜、いや−偶然偶然!」
これで普通に通るのが、このパーティーの悲しさだったりもする。

  とにかくシーファーがオカマ3兄弟に向き直り、
「というワケで、私達は宇宙と話をしていたんです  あ、私はシーファーです、以後よ
ろしく」
と自己紹介を何故かした。こちらにはとりあえず、全員が少しだけずっこけた。
                                        
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