いよいよ式の始まり。クラルはまだ大人しく座っていた。隣には美木麻呂が座っていて しょっちゅうクラルの顔をのぞきこんでくる。 「あずざざん。顔色がよぐないでずよ。」 大男がダミ声で隣のクラルに言ってきた。 「ホホホ。気になさらないで…。(当り前だバカ! 近よんナ!)」 クラルは逃げ腰で言った。ル−ファウスを今は待つばかりだ。 「けれど本当に綺麗ね。2人共よくお似合いですね、森ノ原さん。」 「ありがとうございます。」 母親と友人は好き勝手なことを話しているばかり。クラルは2人のそばにある酒を力で倒 してやった。 「まァ大変、すぐ布を…。」 あまり気にされていなかったようだ。クラルがハラハラとして、もう自力で逃げてやる! と思った時。中庭側の襖が思い切り開いた。ル−ファウスとアラスだ。 「その結婚ちょっと待ったぁー!」 アラスが言った。普通はル−ファウスが言うべきことだが、どうしても嫌がって言おうと しなかったのだ。 「な、何なのあなた達は!?」 「あずささんはこの人と結婚するんだ! そんな…お約束な奴とじゃない!」 アラスが笑いそうになりながら言った。美木麻呂の容姿自体いではなく、本当にあずさの 言ったまま、デブでブサイクな相手がそこにいるというその状況に。 「何だどォ〜! 僕ば、おごっだゾォ〜!!」 ル−ファウスとアラスに美木麻呂は怒っている様だ。2人は吹き出しそうだが。美木麻呂 は2人に飛びかかろうとしたところ、クラルの出した足にひっかけられ顔からこけた。 「美木麻呂さん!」 美木麻呂の母がかけよってきた。クラルは (マザコンかよ。) と思った。 「あずさ! 早く来い!!」 やっとル−ファウスが口を開いた。これだけは言えとみんなから責められたようだ。クラ ルは頭の角隠しをとると、2人の方へ走りにくそうに行った。 (助かったァ−!) 「あずさ! 行ってはいけません!! こんな家柄の良くない男なんかと!!」 クラルは母に手を掴まれたが、その一言を聞くと目の色を変えて 「お母様。例えお金が無くとも私は好きな人といれれば幸せです。私は、あんな人と結婚 しても幸せにはなれません。例えお金があっても。幸せになるのはお母様達だけです!」 ビシィと決めると、手を振り払いル−ファウス、アラスと共に外へ出た。母も、クラルの 厳しい眼光に圧倒された様だ。大男3人などが3人を追って行ってしまった頃、突然母の 前に光と共に現れた少女がいた。エンジュラだ。 「どうしますか? このまま家柄、お金にこだわって娘を手放すか、娘の幸せをもう一度 よく考えて、お互い話し合うか。…親なら娘の、本当の幸せを考えてあげませんか?」 エンジュラは母親にそう言った。 * 「ルゥ兄ちゃん! 後ろから男が3人くらい!」 アラスは後ろから追ってくる男達に気づき、前にいる2人に言った。 「ちっ…(めんどうだナ!)アラス、お前相手しとけ!」 「わかった!」 ル−ファウスに言われるとアラスは立ち止まり、男達を待った。 「ま、待てよルゥ! お前速い! 走り辛いんだゾこの服!!」 ル−ファウスは何も言わないでクラルを持ち上げて、更に加速し走り出した。 「お前本トに女なんじゃないか? 軽過ぎ。」 「うるさいナ! 下ろせ〜!!」 「黙ってろ。頼也と幻次の所まで連れてってやる。」 物凄いスピ−ドで頼也達の所まで着いた。そこには幻次はいなく、代わりにル−ファウス そっくりな男がいた。2人は目を丸くした。 「だ…誰? ルゥに…そっくり…。」 「まァ本ト♪ 気づかなかったわ。」 「…(フゥ…)。このあずさ殿の恋人らしい。ぐ−ぜんルゥ殿に似ておったのじゃよ。さっ きバッタリ会ってな。幻次はおそらくアラス殿と一緒じゃ。助っ人をさした。」 頼也の説明を聞くとクラルは、顔を赤くした。 「ちょっと待ってよ! じゃあ何も、俺が彼女になることなかったんじゃないの!?」 「そ…それは、まァ…。けどお主ならちょっとやそっとの事ではビクともせぬし、彼女に 何かあっては大変じゃろう。」 クラルはもう開いた口が塞がらなかった。そのうちアラス、エンジュラ、幻次が帰ってき た。もう星が空からうかがえる。 「よいか、2人共。エンジュラ殿にとどめの1発を刺してもらった。もう大丈夫じゃろう て、今度は2人で家へ行き、きちんと話をするのじゃ。よいな。」 クラルとあずさの服を取り替えると、頼也はあずさ達に言った。 「そして今度こそ。2人で幸せになるのじゃよ。」 2人は手をつないでおじぎをすると、去っていった。クラルは大きな溜め息を1つ。 「あ−っ、着かれたァ…。」 「クっ…中々の演技だったよ。ホラ、1ページと4行前…ハハっ♪」 −お母様。例えお金が無くても…−のことを言っているのだ。 「あっ、てめ−アラス! 言うんじゃね−ゾ−!!」 「あれはもしかして本心か? あずさ。」 「ルゥ! さっきはよくも女とぬかしてくれたナ!!」 「間違ってたか?」 「それにしても本当によく似てたですよね〜、クラルさんに。」 「クラルが似てたんだろう。女に。」 「うるせ−よ! お前だっていたろ−!!」 「俺の方は男だ。」 「キィ−!! いちいちムカツク−!!」 「何より、事が済んで良かったのぉ。」 「本ト、人騒がせだったぜ。」 みんな、楽しそうに戻っていた。夜の空は美しきかナ。(頼也談) * ‘裏切り者には死を’などと言われているザイスィは、南の城で大人しくしていた。何 か考えているようだ。ライエルの様に、石詰めの窓枠に座り足を組み枠にもたれている。 「…お兄ちゃん…か。」 ポツリともらした。それだけでは全くわからない。が、おそらく前に出会った白い少女の ことだろう。四天王の間を出てから出会った少女のことは、いつも彼の心の中にあった。 「ザイス様。」 ザイス。彼をそう呼ぶ男が窓の外にいた。杖にまたがった男。ザイスィはそれを見ようと しなかった。自分をそう呼ぶのは2人の者しかいない、そういう認識が何故か頭にある。 2人の内1人は女だということも。ならば男の声だとわかると、見ずともわかるのだ。 「お久しゅう、元気にしとった?」 様をつけたわりには、友達の様な言い方だ。ザイスィは何も答えたくなかった。この馴れ 馴れしい男を、嫌っている訳ではないが好きでもない。ザイスィは誰に対しても好き嫌い のことなどどうでも良いと考えるらしく、誰に対しても自分から興味を示さない限りは、 こうやってあまり関わろうとしてこない。ただ今までは、仕方がないところもあったのだ し…けれど5歳から9歳までは、城の中でも外でも興味すら持たなかった。 ザイスィは赤い色の瞳と髪を綺麗な手で押さえている。究極的に愛想がないが、黙って 下を向いていれば美青年だ。その赤を起こし、少し横を向いた。 「この城も騒がしくなったものだナ。ナァ『ディスラ』。」 「何言ってんねん、静か過ぎて湿ってカビ出てきとんちゃう? そんな皮肉通じへんし。」 男は少々ナマリが入っていた。しばし東の正宗を見ていたのだ、5年程。 「…5年も何してたんだか知らんが、いくら君でも俺のしている事に口は出させないゾ。 いくら従兄弟でもナ。」 「何やつれないナ−。昔はよう面倒みたったやん。」 ザイスィは軽く立ち上がり、自分から出ていった。 「変わったナァ…。」 ディスラはフヨフヨと空に浮かんでいた。一言もらしたのは、やはりディスラもライエル とザイスィのことを知っているからだろう。 ディスラはライエルとザイスィより4つ上の従兄弟だ。ケレナも勿論、そのことを知っ ている。ベストには、初めて見る人だった。少し濃いめの茶色のかかった髪に対し、瞳の 色は少し青の入った感じだった。何となく美形ではないが、目元が少しザイスィ達に似て いる様で、キリッとしていて綺麗だ。ザイスィやライエルより目が通り感じなので、左の 頬にある十字傷は彼によく似合っていた。彼は、木の杖を持っており魔法使いの様だ。色 々なことが出来ると本人は言っている。白いマントは全身にまで至り、長身の彼のマント はとても長い。髪は少々クセ毛で、ボサボサとしていた。 何はともあれこれで、ザイスィ、ライエルの過去を知る者はケレナに続き2人目となっ た。それだけで城の中は安らぎを覚えた。 「これからは俺もあんたの召し使い。何でも言えや、王様。」 彼の笑みにはケレナも思わずほっとした。その後、ライエルの部屋までディスラは行って いた。 「これからまたこの城でお世話になるし、またよろしゅ−ナ、ラエル。」 彼はライエルのことをラエル、と昔から言う。 「…。ディス…今は。」 「わかっとる。俺がいない間にも話はどんどん進んどる。東でもナ。まァ東には、遊びに 行っとっただけやし、四天王の様子をうかご−とっただけや。何もしてへん、安心し。」 ライエルはこの男は本当の兄の様に慕ってきた。もちろんザイスィもだ。 「堪忍ナ。俺がずっといなかったばっかりに、お前らに辛い思いさせたなナ。」 ディスラは窓際にいるライエルに対し椅子に座っていたが、立ち上がりライエルのそばま で来た。 「あの知らせがもう少し早よう俺のとこに届いとったらナ…。スマンナ、2人共…。」 そう言うとライエルを強く抱きしめた。‘あの知らせ’とは、6年前の事だ。ザイスィが 母親を殺した時の事。 −6年前− 「ザイス…! お前…おばさんを…!?」 「…。ああ…ディスかい…?」 「ラエル! しっかりしろ!!」 「…。大丈夫、死なないから…。」 「ザイス…。どうしたんだよ…お前はこんな事するような…。」 「もっと優しかった?」 「…見てよ血まみれ…。お似合いだと思わない? アハハハ…ハハハ…。」 「…。」 ザイスィが母親を殺し、ライエルを傷つけたところをディスラは見なかった。ただ彼がみ たのは、その後の事だった。 ディスラはライエルに呟いた。 「俺は、お前らのためやったらこの命、何ボでもくれてやる。」 「…ディス…。」 「そやから…戻ってきてくれ…。」 その彼の言葉はあまりにも静かだった。 * 「もう、ルゥ達どこ行ってたんだよ!」 「まぁ、話せば長い。」 夕食の時間になっても戻らなかったルーファウス達に、サファエルはあたっていた。ルー ファウスとクラルは疲れていたし、他の人達は楽しそうだった。宿の女将さんが何か紙を 持ってルーファウスを捜していた。 「あなたがルーファウスさん?」 「はい、そうですけど?」 「お手紙来てますよ。」 「手紙…?」 パッと開けると、懐かしい字が目に入った。 「ラァの字!? あの、この手紙誰が?」 「え−とね、長いマントつけた異国のお兄さんだったね。」 「そうですか…どうもありがとう。」 誰が届けてくれたのかはわからないが、とても嬉しいようだ。ニヤけているルーファウス をクラルが見て、近付いてきた。 「どしたのルゥ? そんなニヤけて…。」 「ナイショv」 (…語尾にvマークが…ルゥがヤバイ!!) クラルは気味悪そうに笑顔のルーファウスを見送った。 Tale-22 close