「フンフフン♪」 東の城では正宗が鼻歌混じりでクローゼットをあさっている。 「正宗様、今日は一段と上機嫌ですね。何かあるんですか?」 「お−、常康、よ−尋−てくれたな−。さっき魔王サンから連絡があったんや。明日の十 時に四天王の間に集合♪ 久々に魔王さんに会えるんや♪ いや−、何着て行こー」 常康に抱かれている綾の腕の中の葵が思い切り反応した。 「(こんな姿で魔王様にお会い出来ないわっ! 正宗が私を誘う前に逃げなければ!!)」 それに気づいた正宗がにこやかに葵を抱き上げた。 「お前も来るか−? 葵−。お前も魔王サンに会いたがっとったもんな−。」 綾などこの間の仕返しに、ここぞとばかりに葵を‘可愛がって’いる。ここ数日葵の世話 は綾がやっている。きちんと毎日‘キャットフード’をかかさず与えているのだ。 「綾、そそうのない様にな。仮にも正宗様の妹君なのだぞ。いくら愚かでもな。」 (ムカツきますわね! この海ボーズっ 元に戻ったらおぼえてらっしゃい!) 「水瑠璃また何かおもろいもん持って来てくれんかな−。」 正宗は遠足前夜の様にわくわくしつつ身支度をしている。−とそこに、妙な事が起きた。 「きゃ−ん♪ 葵ちゃん可愛くなってる−!!」 「ちょ、ちょっと、どこから入ってきたのよ!」 葵にブラシをかけていた綾のたしなめも気にせず、突然現れた光の珠を連れた少女は2人 に近付いていった。2人の前まで来ると少女は、葵に視線を合わせた。 「やっぱり負けちゃったんだね−、可哀そう♪ でも猫の姿可愛い♪」 キレかけた葵は、すぐ前で自分をうっとりのぞきこんでいる少女をひっかこうとした。が 勢い余って危うくコケるところだった。手が少女の体を通り抜けたのだ。 「あれま、さては思念体やな? 死天使とかとはちょっと違う感じやけど…。」 「ね−ね−、葵ちゃんこんなに可愛くしたの、あなた?」 「そ−や、中々イケてるやろ。特にワンポイントはこの… 「何うちとけてちゃってるんですか正宗様! この城の結界を正宗様にさえ気づかれずに 抜けてくるなんて、と−っても怪しいじゃないですか!」 一方葵は、悔しまぎれに性質まで猫化したのか、少女と一緒の光の珠に手を出していた。 「あ−、コレに触ると危な… 言うのが遅く、葵は光の珠に触れてしまい、手先が少し火傷したような状態となった。 「あ−あ−、力の塊っぽいみたいなもんに手ぇ出すなんて、マヌケな奴っちゃのう。綾、 手当したってくれや。」 「わかりました。」 綾がブスーっと答える。葵はかなり意気消沈している様で、隅で丸くなっている。 「あらら。それじゃね、葵ちゃん。ところでさ、正宗君だっけ−?」 「何や?」 「今回の魔王、どうやら本物みたいだね。じゃ−ね〜!」 意味不明な言葉を残して少女は消えた。 「…? 何やよ−わからん子やったな。思念体という形のわりに気配読みにくかったし、 あれ程ハッキリした形を取るんも、天使とかやないと至難のワザやしなァ。それとも生き とるんかな? ま−え−、敵意も感じへんかったし。さァて、用意用意と〜♪」 やはり正宗はこだわらない性格だった…。 * 「魔王様から招集が?」 水瑠璃は北の自分の城へ戻っていた。留守はいつも、自分で造り出した『ネアン』が守っ ている。思念体だが水みたいな、触るとポチャっとしそうな身長約50cm程の、ぱっと 見たら精霊の様に見える彼女(形的に言って女型なので彼女と表記)は、いつもは水鏡の 中に住んでいる様だが、今はホログラムの様に、水面の上の空間に出ていた。 「明日十時に四天王の間…当然、正宗も来るわね。」 「ええ。この間のアレ、まだありますから用意しましょうか?」 「頼むわ。それにしても、怒られてしまいそうね、どうも…あんまり遊んでいたらいけな いわね。私だけじゃないけれど。」 招集がかかる理由を水瑠璃は、何となく予想していた。まだどの四天王も宝珠を手に入れ てはいない。今の四天王が全員決まってから、もう2ケ月程経つというのに。 いい加減魔王もじれったく思っている事だろう。どんな方法でもいいから、宝珠を手に 入れろ…その命令自体は、歴代の四天王達に随分昔から下されたまま。未だに果たされて いない。 「それにしても…四天王の招集となると。一体彼らは、どちらがやってくるつもりなのか しら」 不意に水瑠璃が、今までとはほんの少しだけ違う口調で呟く。 「…? レイ様?」 「……。久しぶりに…懐かしい人に会えるかもしれない…」 * 全員がそれぞれの時を過ごしていた時、夜の時点でライエルは南に帰ろうとしていた。 「あの人、今度こそ幸せになれましたかねェ。ラル様。」 ベストが人懐っこそうに後ろから追いかけてきた。珍しく空から飛んで帰る気らしく、2 人はまた夜空の中にいた。ライエルはクラルの様子を見に来ただけだったのか、五月が消 えた後安心した様に目を落ち着かせている。勿論、こうやってクラルを見るのも五月を心 配するのも無意識でしかない。五月の前に万里が現れたのはライエルがやった事だ。死の 世界から霊を降ろすのは、白レベルで南の四天王とかつて言われた彼ならたやすい事だ。 最も、ザイスィも同様ではあるが。 「ラル様! 帰るの?」 ベストがハッとしてライエルの手を引いた。ライエルはその手を軽く持ち、ベストの元に その手を返した。ベストは返された手をどの様にすれば良いのかわからなかったが、ライ エルを見ると手の動きはおろか、体さえも動かなくなってしまった。 「…ラル様。」 「お前が気にすることではない。」 ベストを見ようとしないが、確かに優しい目をしていた。ベストはそれを見てどうしよう もなく悲しくなった。ライエルはベストより先に出ると、一瞬止まって、前を向いたまま 言った。 「(私のせいだ…。)私が選んだことだから。」 そう言うと、それが自分には一番良い事という風に肩を下ろして、南へ向かっていった。 ベストは、数分間の後ライエルの後を追った。その数分間の彼の様子には特に目立ったも のはなかった。 * 「四天王集結?」 「はい、明日十時より四天王の間です。」 「…面倒だな…。」 南の城でも、四天王が集まるという事はケレナによってザイスィに伝えられていた。 「ザイスィ様。行って戴かなければ困ります。四天王は別に力を合わせている訳ではあり ません。もしはずれた動きをし、魔王様が南へ四天王を送り込んできたら…。」 「わかっているサ。そんなこと、俺が一番‘その気’なんだから。ラルに行かしてもいい けど、俺が四天王になるということを他の奴らに知らしめるいい機会だしナ。」 彼は四天王の資格が十分にあるが、ライエルを四天王としているため明日顔を出すのは間 違っているが、他の四天王は既に承知の上と思い、そろそろ自分が出ようと思った様だが 先程の言葉通り、本当に面倒と思っている。何事も無ければライエルに行かせただろう。 「それにしても、魔王は本当にいたんだナ…おもしろそうだ。」 「…? 何か?」 「いや…もう下がってもいいゾ。ああそれから、もうそろそろラルが帰ってくるよ。出迎 えよろしく、後、俺の部屋へ来いって言っといてくれ。」 ザイスィは魔王の顔など見たことが無い。だから信用などしていないのだ。クスクスと意 味有りげに笑うと、ライエルのことをケレナに持ちかけ話を逸らした。ケレナは何も言わ ずライエルを出迎えに行こうとした。ザイスィは何も言わないで行こうとするケレナの腕 を引っ張って振り返らせると軽くキスをして、 「よろしく。ケレナ。」 そう言ってケレナをライエルの所まで行かせた。彼にとってもこれは遊びであった様だ。 もちろん、ケレナ自身にもだがベスト向けでもあっただろう。 * ライエルは帰ってきて、先程言われた通りザイスィの所へ向かった。 「やァ、ケレナちゃん 」 「ベスト。いたんですか?」 つれないナァーという顔をしてから、ケレナの異変に気づいた。見た目は変わっていない が、彼にはわかった。 「ケレナちゃん…ザイ様に何かされたの? ザイ様のニオイ…。」 ケレナに近付いて言った。ケレナはまた余計な事を、という顔をした。 「ブーッ、ザイ様ったらひどォーイ!! も−、せっかく『風紀の間』作っておいたのに、 あっさりムダにしてェー!!」 「…あなただったんですか…あんなふざけた部屋を勝手に…。」 ベストには、ザイスィが本気でないことがわかっているだけに、何だかやり切れない様だ。 ライエルは、ザイスィの所へやってきた。部屋へはノックをせずに入ってきた。 「おかえり。楽しかった?」 「…あなたがあの霊を出したんですね。」 「フン、お前だって同じような事したろう。それにしても、‘こんなになってまで’お前 が人助けするなんて思わなかったよ。お前の本能ってやつ?呆れたね。」 ザイスィは、ドアの前にいるライエルに近付いてきた。目の色は狂っている。 「そんなものムダだ、とっとと捨ててしまえよ。‘お前なら’出来るだろ?あの女に好か れてたお前なら。」 「…もうとっくに捨てています。けどあなたは捨ててないでしょう。」 「黙れ! お前に何がわかるんだ、知ったような口きくな! 俺はお前とは違うんだよ!」 ザイスィはいきなり大声を出して、衝撃波に近い力を爆発させライエルを吹き飛ばした。 壁に激突して頭から血を流しているライエルは、何も言わなかった。 「ライエル。二度とそんなこと言うな。いいな。この印がある限りお前は俺から逃げられ やしないんだよ。お前を救おうなんてバカなこと考える奴も、この手で殺してやる!!」 ライエルの前でしゃがみ、額のバンダナをはずして言った。ライエルはザイスィの目も見 なかった。ザイスィはそんなライエルを恐ろしい瞳で見下ろしていた。 Tale-20 close