Atlas' ある船上の一日

オリジナル小説Atlas'本編で、主役達が『体多肉』号という、
某超有名豪華客船への冒涜ともいえる名前の船に乗った時の一出来事。という感じで、
あまりこの4人はまとまって行動する事がないので、そういう話が書きたかったんですが、
結局短編が苦手で断念した結果、何とも中途半端な話になってしまいました……。

ちなみに『体多肉』号もこの後やっぱり沈没します(^^;) 本編では24話辺りです。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。これは管理人単独で書いた話ですが、
本編は他の作者も3人混じり、このビミョーな話よりもっと面白いですので。
なかなかデータ化が進みませんが、気長に頑張りたいと思っています。 




 それは豪華客船『体多肉』号乗船3日目の事。特に何の事件もなかった乗船の間に、細か
く見ればまぁ1つの事件だったのではないかというものがあった。

「今日ぐらい多分、フェンリャ帰ってくるよ〜♪」※ヒロインのエンジュラの本名です
楽しそうに言うアラスに、へー、そうなのかとクラルは適当に頷いた。
「しっかし嬉しそうだな、アー坊。珍しい」
アラスは普段から笑ってはいるが、意外に何かを本気で喜んでいる姿は珍しいのだ。
「クラル殿……あのルゥ殿を見てもそれは言えるかの?」
ふと横を見ると。……ラァ♪ と、相変わらず笑顔な珍し過ぎるルーファウスがいる。日
頃冷静な彼が何故そんな事になっているかというと、つい先日に実の妹ラーファから手紙
が届いたからだ。
「……いや、もう慣れた……シスコンスマイル……」

 ところで今の4人は朝食の帰り道だが、かのシスコンスマイルのルーファウスに先頭を
任せていたせいか、わけのわからない方向に来てしまっていた。
「ルゥって方向感覚マトモだったはずなのに……」
「この様子から見ると、貨物区域かのう?」
「あーあ……オレ眠いから早く部屋帰ろうと思ってたのになぁ」
これでも朝から起きて行動出来ているのだから、吸血鬼のアラスにしては体調の良い方だ。

「……アレ? 誰か向こうにいんのかな?」
クラルが何者かのヒソヒソ話に気が付いた。
「……だから夕刻……召喚……」
「ついに……ルシファー様……」
よく聴こえないのでぼーっとしているルーファウスは置いておき、3人は聞き耳をたてた。
「契約の手筈は整ってるよな?」
「ええ、勿論。これで私達、また一歩真の神へと近付けるのよね」
「ああ、じゃあ5時に」
「ええ」
話していたのはどうやら男1人に女1人で、今はもう何処かへと去ったようだった。

「……何か面白そーじゃん♪」
眠そうだったはずのアラスが、爛々と目を輝かせた。
「な、何が?」
「彼らの言っていた事はよくわからぬのじゃが……」
「簡単簡単♪ アイツら、悪魔を召喚して契約を結ぼうとしてるんだよ。悪魔信仰か何か
の手合いじゃない?」
「なるほど、それなら聞いた事があるのじゃ」
「でも契約って?」
「契約ってゆーのは、話せば少し長いけど……ヒトが何か自分以外の力を借りる時、借り
る相手と交わす取引の事。例えば精霊や召喚獣とか、今アイツらが話してた悪魔とかでさ。
どんな契約でも大抵は、何らかの代価を払って力を借りるか、相手を無理やり使役したり
するんだ。悪魔の場合は代価はほとんど死後の魂≠ゥな? 記憶とか全部パァになって、
その上悪魔にされちゃうっていう、何とも損な話なんだけどね〜」
「―……長いィー……」
アラスは得意分野なのか、珍しくかなり自分から話している。

「これだけじゃないよ、この他にも細かく見たら色んな契約が枝分かれしてあるらしいし。
精霊とだってオレみたいに本契約で魂を共有してるのもあれば、ルゥ兄ちゃんみたいに仮
契約で広く力を借りるのもあるし、サァ兄ちゃんみたいに1つの精霊とだけ真契約を結ぶ
ヒトとかいるし……って、あれ?」
「お、すごーい。魔法陣があるぜ、頼也」
「こっちにはニワトリの首があるのじゃ」
2人は既に全く話を聴いていなかった。

「ヒドイな〜、せっかく頑張って説明してたのに〜。何してんのー?」
「長過ぎてきーてらんねーよ……それよりコレとか、何なんだと思う?」
「うーん……やっぱし、召喚のための魔法陣と生贄? ……でもこんなんじゃ、下級の魔
族すら出てこないと思うけどなぁ……」
「あの2人は全くの素人のようじゃな」
「え? ……まさか頼也、自分なら出来るとか言わないよな……?」
わしは大体何でも出来るのじゃ。と、さらりと口に出す頼也にクラルは冷や汗だった。

「ま、とにかく何も出て来ないなら、放っておいていいよな?」
「えー! こんな退屈しのぎ利用しない手はないってー!」
「じゃあ……どーすんだよ?」
うーんとアラスは一瞬だけ考えた後。
「こないだみたいに、ルゥ兄ちゃんかクラル兄ちゃんに、変装して悪魔やってもらお♪」
ゴン。ぼーっとしていたはずのルーファウスが、さりげなくアラスに拳骨を食らわした。
「ルゥ殿は棄権のようじゃ……ならもう、クラル殿しかおらぬの?」
「ちょ、ちょっと待って!? 何で俺が……まんま悪魔のアラスがやればいーじゃん!?」
「だって、オレや頼也兄ちゃんだとサマにならないんだもん。それに万一何か起こったり
すれば、船、沈んじゃうかもよ? それでもいーの? クラル兄ちゃん」
そこでクラルは以前に乗った船の事を思い出し、咄嗟に言葉に詰まった。
「なら決まりじゃの!」
その隙に頼也に捕まってしまい、何処から用意したのか、あっという間にマントやら黒い
長めで形の特殊な燕尾服やら、悪魔的衣装に着替えさせられてしまった。

「何処にあったんだよこんなモン!」
「何、先程アラス殿が喋っている間に、貨物から芝居小屋の一団の物を発見したのじゃ。
今日の6時までは着替えられぬように術をかけておこうかの」
クラルが自分で脱ぎ捨てん勢いだったため、頼也は強攻策に出たようだ。
「やめてー(泣)!! 頼也何か別人じゃないかー!?」
「気にしない気にしない♪ クラル兄ちゃん、決まってるよ♪」
「では、打ち合わせを始めるとするかの」
クラルの意見と人権は全く無視されたまま、打ち合わせが始まった。

「だからさ〜、やっぱり声を低〜くして、かつエラそーに喋ってもらわないとね?」
「あの2人がびびらぬと話にならんからのう」
「でやっぱし、こないだみたいにシナリオちゃんと決めとかないとね?」
「そのヘンはまだ時間があるし、大丈夫じゃろう」
「でさ……」
間髪入れずに喋ってクラルに割り込む隙を与えないようにしていたのだが。

「……―何です、これ? ……クラルさん、どうしてそんな格好を?」
……ぴた。ある少女の声によって、話し合いはあっさり止んでしまった。
「あー、フェンリャ。お帰りー」
「た、助かった、エンジュラちゃん! 助けてよ! 実は……」
事情を話すとエンジュラは、きっとした顔でアラスを睨んだ。

「何考えてるのー! そーゆー事は暇つぶしに適当にやるもんじゃないんだからね!」
「で、でもさ〜、あーゆーのには少しくらい、怖い目見せてもいいと思うんだけど……」
「何かあったらそこから先は天使の仕事だし、ずっと魔界に帰らないアラスの言う事でも
ないでしょ! もう、クラルさんと頼也さんまで巻き込んで……いたずらばっかり!」
ヒトの気も知らずに……とエンジュラは呆れてため息をついた。いつの間にやら、頼也と
ルーファウスは引き上げてしまったようだった。

「とにかくクラルさんを元に戻して、服とかも元の場所に返さなきゃ……―え?」
上着をまずクラルが脱ごうとしたが、何故かくっついて離れない。
「そう言えば……6時までこのままとか頼也言ってたっけ……」
クラルの顔が青ざめた。
「6時までって……後9時間くらいあるじゃないですか……」
「わー……それまでずっとクラル兄ちゃん、そのカッコ?」
「こ……こんな物燃やしてやるーー!!」
「きゃー、クラルさん早まらないでー!!」

 船のヒトにばれたら怒られるよ? というアラスに、2人の反応が重なった。
「「そーいう問題じゃないーー!!」」
とりあえず今日は一日、平和に終わりそうだった。





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