「−ええっ?  イエロー、ここにはいないのか?」
クリスとゴールドを必死にまいてタマムシ城まで戻ってきたレッドは、エリカに向かって
あれれという顔をした。
「ええ、レッド。イエローは一足先に、この城から旅立たれたばかりですわ」
「何でだよ。俺がまだ戻ってないのに、一人で出るなんて…」
レッドは不可解そうに眉をしかめると、くるっとエリカに背を向けた。
「もう行くんですの?  まだ旅支度は、完全に整ってませんのに」
「イエローを捜さないと。それに旅の支度だって、今持ってるものだけでも本来十分なん
だ…俺にはね」
エリカ達にはあくまで、イエローの旅支度を整えてもらいたいだけだった。レッドは旅な
どし慣れているので、何が自分に必要なのかは、とっくの昔によくわかっている。
「レッド、待ってくださいな。…カツラさんを捜していただく、この旅…おそらく一筋縄
では、いかないでしょう。あなたはイエローを…危険に巻き込んでも良いんですか?」
「…?」
「あなたの実力は十分、承知しています。けれど、イエロー…あの方は…」
そこから先は言い難そうなエリカだったが…レッドはそんなエリカに対して、不思議な表
情を見せた。
「イエローが…何だって?」
笑っているような、温かいような…まるでレッドは何もかも、承知の上だと言わんばかり
の顔をしている。

「ポケモンの気を読み取り、傷を癒す能力。そんな力を持って旅をするイエローの、正体
…多分誰よりも俺が、一番知ってんじゃないかな?」
「レッド…?」
「−はははっ。ま、気にすんなよ。俺はとにかく、イエローを守んなきゃいけないんだ…
それが約束だから。だからどんな所でも、イエローと一緒に行くよ」
それじゃ! とレッドは、そのまま軽快に駆けていった。エリカはただ茫然として、レッ
ドの後ろ姿を見守るばかりだった。

「エリカ様…エリカ様」
「−!  何でしょうか?」
ふと気付くと、いつもの側近が彼女を呼びにきていた。
「ハナダのカスミ様が、通信を求められております」
「わかりました。すぐ参りますとお伝え下さい」
まだ少し要領を得ていないが、エリカはいつものしっかりした顔で通信室へと向かった。

「……!?  何ですって…!?」
「だから…それは有り得ないはずよ。あのアマリロ王女が、タマムシに現れるなんて…」
対面通信用のスクリーン上で、ハナダ王国の女王であるカスミは首を傾げて答えた。
「エリカの言うことが本当なら、そのイエローって子…ホアンじゃないのよね。にしても
トキワのアマリロ王女にあげたのと、同じポケモンを持ってるなんて…。オマケにアマリ
ロが持つって噂の力に似たものまで、その子…持ってるんでしょ?」
でも今、アマリロ王女がタマムシにいるはずはない。カスミはあくまでそう言い張った。
何故なら…。
「だとすると…本当に、どうなっているんですの…?」
カスミから色々な話を聞いたエリカは、ますます訳がわからないといった顔付きだ。2人
共しばらくの間、ひたすら首を傾げるしかなかった…。

                                       *

  ガラガラガラ…背後の建物の一部がやむなく崩れていった音を、イエローは唖然とした
顔で聞いていた。
「どう、イエロー?  凄いでしょ。今の。」
自分と同じ顔をした少女が、つい先程『たたきつける』で背後の建物を壊させたイワーク
の上で、得意そうな顔をする。イエローにはわざと当たらないようにした辺り、少女には
かなりの余裕が感じられた。
「ねぇ…どうしてイエロー、遊んでくれないの?」
「遊ぶ…?」
「私、強くなったよ。頑張って強くなったんだよ…」
少女は少し苛立ち始めた顔付きで、イエローを見る。

「あのさ…遊ぶってどういう事?  ポケモンバトルのこと?  ボク、バトルは苦手だし、
それにあんまり…好きじゃないんだけど」
「…喜んでくれないの?」
「…?  君は一体、誰なの?  何がしたいの…?」
どうしてボクにそっくりなの?  どの質問にも答えずに少女は、哀しそうな目でイエロー
を見ていた。
「わかってくれないの…?  どうして…!?」
声の端にも苛立ちが混じってくる少女に、イエローは更なる警戒の目を向ける。先程から
この少女の遊び半分のようなポケモンバトルから、とりあえず必死で自分の身を守ってい
たのだ。イエローを守ろうと必死だったピカチュウも、少しずつ疲れ始めている。
「やっぱりあの人の、言った通りなんだね」
「あの人…?」
少女はイエローを見ながら、自身の手をも哀しそうに見つめる。
「…。…イエローが…イエローが悪いんだからね!」

「−!?」
イエローは咄嗟に身構えた。そのイエローの前で少女は、イワークにはっきりとした声で
指令を出す。
「イワーク!  イエローを捕まえて!」
「えっ…!」
イワークがその長い尾をもって、イエローに巻き付こうとする。イエローは危うく、その
まま捕まるところだったが…何故か突然、何かがそのイワークの行動を遮った。
「何!?  どうしたの、イワーク!?」
何はともあれ、チャンスだ。イエローはドードーを場に出すと、その背にのって逃げ出し
た。それに気付いた少女はイワークに追うよう指示を出したが、今度は先程の何かが、イ
ワークの視界を遮るように飛びまわる。
「あれは…ヤミカラス!?  誰!?  邪魔をするのは!!」
イワークの行動をことごとく邪魔するポケモンに、少女は怒りの形相だ。
「このっ…チュチュ!  『でんきショック』!!」
ずっと傍らにいたピカチュウに命じ、電気技を撃たせる。ヤミカラスはどうやら直撃を受
けたようで、トレーナーの指示なのか、場から去っていった。
「…もう。早くイエロー、捜さないと」
傍らのピカチュウが心配そうな顔付きで、少女を見上げる。少女はそれに気付くと、大丈
夫、と小さく微笑んだ。
「心配しないで。絶対に私…イエローに負けないから」
強い意志のこもった目付きが、イエローの逃げていった方向を見つめる。ピカチュウはな
おも、心配そうに少女を見ていたが…少女は未だ、その意味を知ることはなかった。と言
うより、知ることは出来なかった。ポケモンの想いを読み取るイエローのようには。

                                       *

「…追ってこないのかな…」
あの後イエローは、あても無いまま逃げ続けた挙句…気が付けば港に出ていた。
「ここ、何処だろう…海なんて初めて見たや」
ほぇーー…と、海の広さに目を見開いて感心する。おいおいと呆れるピカチュウに、どう
しよう?  と苦笑してみせた。
「レッドさんと完全に、はぐれちゃったね…ごめんね、ピカまで巻き込んで」
先程の少女が一体何だったのかは、今も全くわからない。しかし…自分に何か関係がある
ことだけは、間違いない。
「ふぅ…。……−!  って…えぇっ!?  レッドさん!?」
「ぉお−い!  イエロー!」
イエローとピカが同時に、驚いて頭上を見上げる。そこではレッドが、プテラの翼を借り
て空を飛び、イエローの方へやってきていた。

「こらぁ!  捜したぜ、もう!」
くるりんと器用に宙で反転して地上に降り立つと、レッドは迷子の生徒を見つけた先生の
ような顔付きでイエローの前に立った。
「レッドさん…どうしてここが?」
「え?  そんなの、さっき町で会った茶髪の奴が偶然教えてくれたんだよ。それよりイエ
ロー、何処いってたんだよ?」
茶髪…? 誰に見られてたんだろうとイエローは不可解な顔をしつつ、ちょっと怒った感
じのレッドに苦笑してみせた。
「ボクもレッドさん、捜してたんです。そしたら町で変な事に巻き込まれて…」
「へ?  俺を捜すって…何で城で待ってなかったんだよ?」
「…どうしても、すぐに尋きたいことがあって。あの、レッドさん」
「−?」
少しためらいつつも、一度深呼吸をして落ち着く。

「あの…ですね。レッドさんにとって、ボクって…足手まといのお荷物ですか…?」
「−へ?」
「ボク、バトルも弱いし、世の中のこと何にも知らないし…こんなボクが旅をしたいなん
て、やっぱり間違ってるんでしょうか。…レッドさんの迷惑になってますか…?」
本当に申し訳なさそうに、うつむくイエロー。レッドはというと…思いもかけぬ事を言わ
れたという顔をして、困ったようにイエローを見た。
「何で急にそんなこと言うんだ?  イエロー」
「それは…」
「そんなに俺って、頼りにならないか?」
「えっ!?  違います!!」
不服そうな表情のレッドに、慌てて否定した。
「違うんです、そんなことじゃないんです。ボクが言いたいのは……レッドさん!」
思い切ってレッドを見るイエローに、レッドの表情が少し緊張する。
「ボク…一緒にいて、いいんですか!?  どれだけお荷物でも…足手まといでも」
…何だよ。レッドは呆れた顔で、当り前だろと答えた。
「俺は護衛だろ?  イエローを守るのが当り前なんだから」
「じゃあ…」
「イエローが嫌じゃないなら、このまま一緒さ。イエローの旅が続く限り」
あっさりと言うレッドに、幾分かほっとする。悪いなぁと思う気持ちは、未だイエローの
中に残っていたが…先程の少女のことや、トキワの森で自分達を襲った得体の知れない敵
のこともある。

「それじゃ、行こうか」
「え?」
レッドが海上にギャラドスを出した。
「カツラさんを捜すのに、まずはグレンへ行く。カツラさんの国の中で、何か手掛かりを
捜してみるんだ」
そのためには海を渡る必要がある。グレンは島国なのだ。
「イエローは波乗りポケモン持ってないだろ?  ギャラに一緒に乗ればいいよ」
「あ、有難うございます」
いいってこと!  にこやかに笑うレッドはイエローが捜していた、2年前の命の恩人なの
だ…。改めてそれを認識したイエローは、同じように微笑んでレッドを見た。すると…何
故かレッドは目をぱちくりさせて、一瞬赤くなったかと思うとすぐに横を向いてしまった。
イエローはひたすら、「??」だった。

                                       *

「…!!  じゃあ、やはり…ホアンは存在するんだな」
《ああ。タマムシ国王の言う通り、アマリロ王女にうり二つだ》
マサラの現国王の孫であるグリーンはマサラ城の自室で、ポケギアを相手に難しい顔をし
ていた。
「しかし何者なのかは、未だわからずか…。引き続き、成り行きを監視してくれ」
わかっている、とだけ通信の相手は無愛想に答える。
「もしもこのまま、ホアンの動きが読めなければ…全てが狂ってくる。わかってるな」
《…ブルー姉さんの苦労も、無駄になる》
それに対してグリーンが何か答える前に、通信は途切れた。
「…そろそろ俺も、出発する頃合いだな…」
既に支度は終えていた。グリーンはそのまま自室を出ると、誰にも何も言わず、マサラを
出る手筈となっていた。

                                      *

「それにしても…海って本当、広いんですね」
「イエローは海、初めてなのか?」
風を切りつつ、ギャラドスが海を渡る。それに乗った2人は事もなく喋っていた。
「ってことはカナヅチだな。ドジなことしてギャラから落っこちるなよ〜」
「落ちませんよ!  それにボク、そんなにカナヅチじゃないですよー」
本当に〜?  すっかりレッドのペースでからかわれるイエローだった。
「別にカナヅチは恥ずかしくないんだぜ、イエロー。15年前の大旱魃、知ってるか? 
そういう災害があったせいで、水ってもんをとことん大事にするだろ。だから泳ぎを練習
出来るような場所も作らないから、意外と全国に沢山、カナヅチがいるんだよ」
「本当ですか?  大旱魃のことは、おじさんからきいたことありますけど…」

イエローもレッドも、生まれる前のことだ。カントー全域に長い間雨が降らず、井戸は枯
れ、貯水池は干上がり、相当大変な事になっていたらしい。
「確かそれで、沢山の水ポケモンや氷ポケモンが酷使されて、死んでいったんですよね…」
しんみりと言うイエローの声の末尾に、誰かの声が重なった。
「そうよ…私のお友達も沢山、死んでいったわ。人間のせいでね…」
レッドがはっと、警戒体制に入る。2人を乗せて海を渡るギャラドスの横に、いつの間に
かラプラスが1匹、近づいて来ていた。
「−誰だ!?」
「ふふふ。初めまして。マサラのレッドと…トキワのイエロー」
「ボク達を知っている…!?」
やがて2人はラプラスの背に、1人の女の姿を見つけることが出来た。
「自己紹介が遅れたわね。私はカンナ…四天王の1人よ」
「四天王…!?  国王達をも凌ぐ、裏世界の実力者のことか!」
レッドの表情に、更なる緊張が走る。

「四天王が一体、俺達に何の用があるんだ!」
「ふふ…そうねぇ。今のところ、我らの狙いは…その子かしら」
カンナと名乗った女が、不敵に笑いながらイエローを見た。
「けれど私の相手は、あなたのようね。レッド」
当然の如く、イエローをかばうようにレッドが前に出て、ギャラドスの頭の上まで来る。
カンナとレッドはしばしにらみあった。
「代わりに私の仲間が、その子の相手かしらね…」
「?  …−!!  何だ!?」
突然、ギャラドスの周囲の水が凍る。イエローが乗っている箇所のすぐ後ろだった。
「しまった…イエロー!」
イエローのすぐ近くに、ジュゴンに乗った少女が現れた。カンナに気を取られ、ジュゴン
の存在に気が付かなかったのだ。レッドはイエローの方に行こうとしたが、カンナの攻撃
によってイエローがギャラドスから降り落とされた。
「わぁぁっっ!」
「イエロー!?」
しかしそんなイエローを助ける暇もなく、カンナの次の攻撃がレッドに迫る。

「イエロー!  大丈夫か!?」
「はい、何とか!!」
危ないところだったが、イエローは先程凍らされた個所へ落ちたようだ。
「わぁい。今度こそ逃がさないよ、イエロー」
「…!!  お前は…」
「お前じゃないよ。今は、ホアンだよ」
ジュゴンに乗った少女はまたしても、自分と同じ姿の彼女だった。
「あれは…!!?」
レッドもカンナの攻撃を受けつつ、少女の姿に気付く。
「残念だけど…ホアンの手にかかれば、あの子はひとたまりもないでしょうね」
「ホアン…?」
それがあの、ジュゴンに乗った少女の名前のようだ。カンナは楽しそうに笑うと、ラプラ
スによって『白い霧』を吐かせた。周囲の視界が恐ろしく悪くなっていく。
「くそっ…」
一刻も早くカンナを撃破し、イエローの元にいかなければ。今の頼みは、イエローのそば
にずっとつかせているピカチュウのみだが、それだけで長く持つはずがない。
「頼むぞ…ピカ!!」
レッドの声に、ただならぬ緊迫感がみなぎっていた。

小説ってやっぱり大変ですね…サイト休止だの何だのとごちゃごちゃしていると、
考えも時間もなかなかまとまらないんです。ううう↓↓ PC中毒には辛いっス。。
挿し絵すらないのもちょっとばかし、シビアな状況の証明かと(苦笑)
半分不可抗力なので自分だけじゃどうにも出来ず、PC完全復帰宣言もまだ出せてないですしね。
それでも懲りずに読んで下さる方。待って下さる方。本当に有難うございますm(_ _)m
時間の隙間を見つけて、ちょっとずつでも頑張って書いていきますので…

この頃は本当色々、オフでたてこんでたんですよねー…。5話辺りの頃から。
とある事情でサイトを休止していたのです。忙しい、とかだけの理由ではござんせん。
今は随分マシな状態に戻りましたが、根が深い問題なので解決はしてません(苦笑)
でもネット出来てるくらいだから、そう滅茶苦茶深刻ってわけではなかったようです。
かといって謙遜する程軽い問題でもなく(何じゃそりゃ)
何にせよ人生、落とし穴はいっぱいって事で! くれぐれも気をつけましょうなのですー。
PSLへのコメントに全然なってないぞ、自分(ツッコミ)