「…!! まずい事になった…!」
トキワの城を落とそうと現れた前国王派の3幹部を阻止するべく、正門、裏口、玉座に向
かったレッド、ゴールド、クリスだったが。おそらく3人共が同時に、そう思ったに違い
ない事態が発生していた。
「貴様らに勝ち目はない、マサラの節介人。諦めるのだな」
正門でレッドの前に立つ、3幹部の一人のキョウが勝ち誇った顔で言う。同じような内容
の事をゴールドやクリスも、3幹部の残り2人、マチスとナツメに言われていただろう。
…何故なら。
「まさか…伝説ポケモンなんか捕まえてくるなんて…!」
呆然としながら、レッドがキョウの立つ場所の上空を見る。そこには圧倒的な威圧感と共
に、氷を司るその力の大きさに伝説の存在と言われたポケモン、フリーザーがいた。
「よりによってフリーザーかよ! ファイヤーやサンダーなら、まだしも何とかなったっ
ていうのに!」
立て続けに襲い来る氷の刃の嵐に、レッドはひとまず避けてまわるだけで精一杯だった。
今の自分の手持ちのポケモンに、「氷」という属性に圧倒的に有利な属性を持つポケモン
はいない…仮にも「伝説」を相手にするのだから、それぐらいでないと確かに勝ち目はな
いのだ。トレーナーの技術云々などを鼻先で笑い飛ばすようなポケモンこそが、伝説なの
だから。レッド程の手練でなければ、連続した攻撃を避ける事さえも全く不可能な話なの
である。
「ったくよォ! 何でまたこんな上手いこと、不利な相手に対峙しなくちゃならないんだ
かよ!」
「ふふん。いい加減諦めたらどうだよ? オマエに完全に、勝ち目はないってんだよ!」
ちなみにゴールドの相手のマチスが持ち出した「伝説」はサンダーという、雷を司るポ
ケモンであり、ゴールドの手持ちにも雷を抑え得る属性を持つものはいない。
「もしかすると…私達の内の誰が何処に向かうか、どの幹部に出会うか。それが敵に予測
されて、タイプ相性不利になるよう仕組まれたのかしら…!?」
クリスの相手のナツメの持つ「伝説」はファイヤーといい、炎を司る…やはりクリスの手
持ちにも、炎に強く打ち勝つ程の属性を持つものはいなかった。
「フ…察しがいいな。私にエスパーとしての能力がある事を、もっと警戒しなかったお前
達が迂闊なのだ」
やはりナツメの透視か近未来予知によって、こういう状態に持ち込まれたらしい。元々の
ポケモンの実力差からして大き過ぎる上に、属性の相性ですら有利である点がほとんど無
いのだ。こんな状態でどうやって、「伝説」を相手に勝利を得れば良いのだろうか?

 しかし。そこで諦めるようでは、達人失格である。

「ふむ。マサラの次期王というのは伊達ではないようだな」
レッドは迫り来る氷から身を逃しつつ、トキワ城に対する氷の侵食を未然に防いでいる。
氷を溶かす事が出来るポケモンはいないが、氷に耐性を持つニョロボンの格闘技で粉砕し
て、それをプテラの翼で吹き飛ばすことを繰り返し行っているのだ。

「本っっっ当…呆れる程にしぶといな、オマエ。ここで殺すのが惜しいくらいだぜ」
周囲への被害を最小限に抑えつつ、しつこく逃げ回るゴールドにマチスが苦い顔をする。
今現在狙われているのは自分なので、バクフーンに乗ってギリギリのラインで雷を避けて
まわっている。余程根性が座った者でなければ出来る事ではない。

「2年前の屈辱…今度こそ完全にアマリロを亡き者にし、この恨みをはらさせてもらう」
凍るような殺気を目に宿しつつ、ナツメが言う。クリスが意外にしぶといどころか、ファ
イヤーの炎を自分の炎ポケモンであるウィンデイを使い、吸収させるに近い事をしている
…飛び行く炎をその体で受けさせているのだ。そしてカラカラが必死に、微々たるものだ
が炎を消してまわっている。どれだけ必死でも、玉座の間以外に炎が広がるのを防ぐのが
やっとだが、それでも大したものである。
「(2年前の屈辱…? レッドさんの出現によって、イエローさんを殺し損ねた事を言っ
ているのかしら?)」
余計な事を考えている余裕は無いと思いつつも、ナツメの殺気があまりにも強いので、つ
いついそんな事を思ったクリスだった。その辺りの事情はあくまで、簡単な説明を受けた
だけでよく知らない事でもあるのだが。それにしても、周囲の炎によって異常に室温の上
昇した玉座の間にいながら、そんな事までよく考えが回るものだ。

「さぁ…どうする!?」

 これもまた、3人がほぼ同じ事を必ず思っただろうことだ。…正直なところ、3人は今
…未だかつてない程の、苦しい戦いを強いられている。

 そしてそれは、アマリロの居室に残ったイエローも同じだった。
「もう、やんなっちゃう。どうしてイエローってば、そんなに弱いのよ?」
イエローのポケモンはピカチュウ以外、全てが昏倒してしまっていた。ホアンのポケモン
達は全体的にかなりレベルが高く、加えてホアン自身、かなり戦い慣れている。イエロー
はある程度の戦いの知識を、旅の間にレッドから習いはしたが…やはり圧倒的に、実戦経
験が少ないのだ。そして…。
「イエローの奴…どうにも本気に、なれていないな」
イエローのおじはイエローに加勢しようとしたのだが、ホアンのジュゴンが作り出した氷
の壁に阻まれ、何とか見つけた隙間から戦いの様子を見守ることしか出来ない。しかし彼
は、そう長いとは言えない旅の間でのイエローのポケモンバトルの上達具合に、正直かな
り驚いていた。おそらくイエローには本来、バトルに関して非凡な才能があったのだと思
い至ったのだが…その素質を、彼女の甘さが邪魔をしている。トキワの王女としてトキワ
を守るために、ホアンを倒さなければいけない事をわかっているつもりでも。一体どうし
て自分はホアンと戦うのか…ホアンの本当の目的は何なのか。それがわからない限り、ど
うしても本気に成り切れない。ホアンを心の底から「自分の敵」と見なせない限り、本気
になる事が不可能なのだ。もしもイエローが本気になる事が出来たら…あるいは、ホアン
と互角になるかもしれない。トキワの力の有無という違いが2人にはあるから。しかし、
ホアンもイエロー自身さえも、そんな状況を悟ってはいなかった。

「このままじゃボクは…ホアンに負けたら、このトキワは……」
「王女のくせに、イエローは本当に弱いんだから。私なんて、この2年間、ずっと…強く
なるためにだけ生きてきたんだよ。各地の王を相手にしたり、厳しい修行に耐えてきたり
…それがどんなに辛くて、苦しい事だったか。甘いだけのイエローにはわからないよね」
タマムシのエリカ曰く、様々な国の王達に勝負を挑んだホアンという少女の存在。それは
強くなるためだけの、彼女の孤独な旅だったようだ。
「私がそこまで強くなりたかったのはね、イエロー。もしかしたら、私は…イエローのた
めに創られた存在かもしれないから。イエローに変わってトキワを守る、ガーディアンな
のかもしれなかったから」
「…え?」
ホアンは攻撃の手を止めると、厳しい顔つきでイエローの方を見ながら喋り出した。
「イエローは何も知らないけどね。イエローのその力は、トキワの森から与えられたもの
…森が自身を守るために創り出した、トキワの森を守るガーディアンである証なの」
「森を守る…ガーディアン…?」
聞き慣れない単語だが、意味はわかる。しかしその本質は…一体何だというのだろう?
「トキワの森を、その森に住むポケモン達と一体になって守る…そのための力。ポケモン
の気を読み、また回復してやれる力。一度くらい、不思議に思わなかった? イエロー。
どうしてあなたには、両親と呼べる存在がいないのか」
イエローには一応おじがいるという事になっているが、それは彼がそう名乗っているだけ
の話だ。考えてみれば、彼が本当の血縁であるということを示す証拠は…今のところ、な
い。
「それも当たり前の話…だってイエローは人の子じゃなくて、森が創り出した存在なんだ
もの。それなのにどうしてか、イエロー自身にはその自覚が無かった。そして森を守れる
ような実力もないまま…自身の役目に何も気付かずに生き続けている。そんなのってさ、
当然ガーディアン失格だよね? だから森は、イエローに変わる新しいガーディアンを再
び創り出した…それが、私」
ホアンが言いたい事はつまり。
「ボクがその、ガーディアンにふさわしくないから…君が創られたっていうこと?」
「うん。そうかもしれないって、ワタルが言ってた」
知らない固有名詞が出てきた事に気付く程の余裕は、今のイエローには無かった。
「もしもそうなら…私が強くなって、森を守れる程の力を身につけたなら。きっと私こそ
が、本当のガーディアンになれるんだって…本当の、イエローになれるんだって」
ホアンはトキワの力自体は持っていない。イエローという存在に与えられた力は一つ切り
で、しかしそれを持つ事の出来る肉体は二つ…自然。どちらか一人の内にしか、その力は
存在しない。
「じゃあ、ホアンは…ボクの力が欲しいってこと?」
「……。……私、は……」
そこでホアンは口ごもった。イエローから目をそらして俯くと、小さい手を微かに震わせ
ながら強く握り締めていた。
「私は……私は………」

 …私は、イエローに戻りたいだけ。声にならない声を確かにイエローは聴いた。

「そのためには、どうしても…イエローが邪魔なの。イエローがいる限り、ずっと私は…
ホアンでいなければいけない。イエローになる事が絶対に出来ない…!!」
すっとホアンは、躊躇ない手つきでハイパーボールを取り出す。
「ゴメンね、イエロー…私本当は、信じてた。私達が一つになれる日が来るはずだって。
私達は同じなんだから、きっと…殺し合いなんかしなくても済むんだって信じてた…!」
ホアンのポケモンの全てがその場に現れる。イワーク、ジュゴン、ハクリュー、ゴース…
ホアンの肩に乗っているチュチュ以外の全てが、イエローを囲んでいる。
「でも駄目だった。イエローは私を思い出してくれなかった。私を受け入れてくれなかっ
た。だったら、もう……こうするしか、ないの」
ホアンが一つ手を振ると、ハクリューがイエローを守ろうとするピカチュウに巻きつき、
その動きを止めた。動こうと必死にもがくピカチュウがイエローの方を必死の目で見たが
…イエローは虚ろな、そして哀しそうな目で。ホアンの事だけを見ていた。

「あいつ、まさか…イエローを本気で殺す気なのか!!」
イエローのおじは必死に氷の壁を破ろうとしたが、ジュゴンが壁を強化する役回りにつく
ともうどうにもならなかった。残ったゴースとイワークがイエローを見下ろしている。イ
エローを殺す技の指示のために、ホアンがすっと右手を上げる。
「やめるんだホアン! そんな事したってお前は、イエローになんかなれはしない…!!」
彼の声は厚い氷の壁に阻まれ、決してホアンに届く事はなかった。
 そして、ホアンは…指示の実行を下す合図として、その右手をついに振り下ろしたのだ
った。


 …空虚な瞳の奥深く、微かに脳裏を横切った光景。それは一体何だったのだろうか。

 ―…どうして、私が…死んでいるの…?―

 確かにこれは自分の声。自分の記憶。たった今目の前に、懐かしい緑の森と…ピクリと
も身動きする事がなく、完全に死んでいる自分自身の姿が。イエローには見えていた…。

                                       *

 3幹部が用意していた伝説ポケモンの前に、圧倒的な苦戦を余儀なくされていたレッド
達だったが。その転機は唐突に、訪れた。
「―何だ!? フリーザーの氷があっという間に溶かされていくなどと…そんな馬鹿な!!」
狼狽するキョウの前で、レッドですらも呆然としている。突如として現れた強力な炎が、
フリーザーの氷を打ち消していっているのだ。そしてその炎の持ち主は…。
「あれ…お前、は…? …………………………………………………………エンテイ!!?」
伝説と呼ばれる程の存在であるフリーザーの氷を、簡単に打ち消していくことの出来る炎
の持ち主は…やはり「伝説」なのだった。
「何で伝説のポケモンがこんな所に…何でオレを、助けてくれるんだ?」
訳はわからないが、ようやくチャンス到来である。どれだけ唖然としていようとも、それ
を見逃す程レッドは甘くない。
「行け、みんな!! 一気にカタをつける!!!」
フリーザーによって圧倒的に優位だったはずのキョウは、それ以外のポケモンを表に出し
ていなかった。なので総力戦で同時に来られると、なす術もなく一瞬で、戦闘が可能な状
態ではなくなったのだった。

 同じように、ゴールドとクリスの元にも転機が訪れていた。
「お願い、スイクン!! 私に力を貸して!!」
「くっ…そんな事が…!!」
ファイヤーの炎は完全に、エンテイと同じく「伝説」のスイクンによって消し止められて
いた。エンテイは炎、スイクンは水を司る。完全に無力化されたファイヤーを退けると、
クリスも数秒で、その戦いに終止符をうった。ナツメ本人を気絶させたのである。
「……ふう…。有り難う、スイクン。助かったわ。それにしても、どうしてここへ…?」
クリスとスイクンは、そう知らない仲でもなかったりするらしい。
「まぁいいわ。レッドさんはきっと大丈夫だから、ゴールドを早く助けに行かなくちゃ!」
駆け出すクリスを見守りつつ、とりあえずその後スイクンは。どうしたもんだか…という
感じで、これからの行動にちょっと困っている様子だったようだ。

 そしてゴールドの方では。
「そんな馬鹿な…オレの雷が押し返されている!?」
「残念だったな、電気は互いを相殺し合って、強い方が残った分だけそっちに流れるもん
なんだよ! こんなの誰でも知ってるだろ? どんな力にも共通してる事だしな」
ライコウという、雷を司る「伝説」によって、サンダーの雷は押し返されていた。先程か
らサンダーは散々、ゴールドに向けて雷を放っていた後だったので、同じ「伝説」同士と
言えど、僅かにライコウより雷の力が弱くなっていたのだ。
「下らない事を言ってないで、早くとどめをさしたらどうだ。時間の無駄だ」
さっきまではその場にいなかった者が、一人増えていた。
「っさいなー、わかってるっつーの! オラ行くぜ、みんな!!」
そうしてゴールドの戦いにもカタがついた。気絶したマチスを拘束すると、後から場に現
れたある少年に、ゴールドは明らかに不快そうな顔をしてつっかかり始めていた。
「ったくよ〜。助けに来るならもっと早く来いよな、シルバー。しかもよりによって、伝
説の3匹まで呼び出してくるかっつーの。まぁ今回は時間がそんな無かったから、勝負を
早く終えるためには良かったんだけどさぁ」
別に「伝説」なんかに頼らなくてもオレは勝ってたんだぜ! と言わんばかりだ。確かに
レッド、ゴールド、クリス程の達人となると、その可能性もあったが…この切羽詰った状
況下で、逆転劇にかける程の余裕はなかった。
「お前と違って俺は忙しいんだ。こんな所で負け犬の遠吠えを聞いてる暇はない」
むかむかっ。不機嫌度の増したゴールドを更に無視し、シルバーと呼ばれた少年はトキワ
の城へと入って行く。ゴールドも慌ててそれを追いかけ、城の中に戻る。
「オイ、ちょっと待てよ! お前一体何のつもりなんだ! 助けてもらったのは感謝する
けどな、この城にお前は何の用があるんだよ!?」



「…俺は、ブルー姉さんの手伝いをしているだけだ」
手伝い? とゴールドが訝しそうな顔をした所へ、廊下の向こう側からクリスが走ってき
た。
「ゴールド、無事なの!? …って…あれ?」
ゴールドの姿を確認して、ホッとしたように立ち止まると同時に。クリスもシルバーの存
在に気がついたようだ。
「…そっか! スイクンを連れてきてくれたのは、あなたなんだ」
やっと謎が解けたわという顔でクリスはシルバーの手を握った。
「有り難う、本当に助かったわ! 一体どうやって、伝説のポケモンの力を借りることに
成功したの?」
ぶんぶんと派手な両手握手を交わす。シルバーは微妙に戸惑いつつも、ゴールドの時には
答えなかった問いに答えていた。
「トキワの森の現在のガーディアンを守るために、協力を要請した。ただの人間一人を守
るためなら、早々動く事はない彼らも…自然の守護者のためとなれば話は別だ」
……は? ゴールドとクリスは、揃って目を丸くした。
「トキワの森の…ガーディアン?」
「って、もしかして…アマリロのお姫様のことなのかよ…?」
「そこから先は、私が説明しよう」
―? 裏口に続く廊下の方角から突然聞こえてきた声は、ゴールドとクリス、どちらも知
らない男のものだった。
「最も、話をするならレッド君も交えての方が効率が良いだろう。君達の合流場所に案内
してほしい」
立ち止まっていたゴールド、クリス、シルバーの所まで、サングラスなどかけてぱっと見
はとても怪しい男が追いついてくる。しかしシルバーは全く驚いていなかった。
「あの…あなたは?」
「じーちゃん誰だよ?」
ぽこっ。無表情なままシルバーが、ツッコミ的拳骨をゴールドにお見舞いした。
「いってーな、何でなぐんだよ!」
「仮にも一国の王に向かって、その言葉遣いはないだろう」
「一国の…王?」
クリスが不思議そうに男を見上げると。男は少し照れたように、軽く会釈をしてみせた。
「初めまして…私はカツラ。一応グレン公国の王などやっています」
……。クリスとゴールドは、改めて唖然としたのだった。

キャラの台詞に説明口調がやたら多いのは許してやって下さい。戦闘シーンは難しいのです(==)
……。………………。
いや…もっと他に、お詫びしなけりゃならんことがあるでしょう、自分(苦笑)
どうも、かなり久々なPSLのUPです。久々過ぎて自分も内容忘れてました(爆)
イエローとかの設定を、PSLだけの話という事で、随分勝手に色々書いてますね…
ま、元からそういう話ですけどさ(笑) ファンタジーもどきですから。
ってかジムリーダー達、書き難っ!!! キャラのイメージ全然違ったら許して下さいー(汗)
ジムリーダー達の説明詳しく入れようかどうか迷ったんですが…多分今後、全然出ないので割愛(笑)
すみません、使うキャラ偏っていて; もっとバランス良く全員を活かせるようになりたいです〜。
何か微妙に、ポケスペ世界にそぐわない暗い内容だし…いいのだろうかこれで…。
それでも読んで下さる方、いつも本当に有り難うなのです!
何気に一番うちのサイトの目玉になってるみたいですしね、このPSL(笑)
時間はかかりますが、終わりに向かって頑張るのです☆ 再び気長にお待ち下さると嬉しいのです〜。