―ボクに何かがあったとしても、アマリロ王女本体には、影響はないんですから―

 そのイエローの発言の意味は、場にいた誰も測ることが出来なかった。
「どういう意味だよ、イエロー」
「簡単です。もしもボクがいなくなっても、アマリロ王女はちゃんといるんです。…ほら、
そこに」
ホアンを指差して言う。差されたホアンは初めて顔を上げた。
「多分ボクより、ホアンの方が王には相応しいと思いますよ。四天王達の意向がどうであ
れ、ホアンがアマリロになるなら…ホアンは絶対にトキワを守ります。トキワに悪い事は
するはずがない。だから、ボクがいなくても大丈夫なんです」
「イエロー…?」
呆けたような顔つきでホアンがイエローを見る。ホアンにもイエローの真意はわかりかね
るらしい。

 イエローは少し、苦しく笑った。
「考えてたんです…ボクとホアン、どっちが本物なのかなって。それでつきつめてみたら、
ボクが偽者なんだってわかっちゃったんです」
「何…言ってんだ? イエロー」
「さっき、ちょっとだけ思い出した事があって…それからホアンのピカチュウ、チュチュ
の気に触れて、わかったんです。ホアンは自分が、森に新しく創られたガーディアンだっ
て言っていたけど…」

 ―それは、逆なんです。

あくまで淡々と言うイエローが次に語り出したのは…2年前のあの時。レッドとイエロー
が出会った時の、今まで霞がかかっていたような記憶の一部だった。
 あの時…前国王派からの刺客に襲われて、レッドに助けられたという記憶。でもそれは
穴だらけの記憶で、自分だけでは最早、何が起こったのか知る事は出来なかった。
 けれども。
「…チュチュは見ていました…ホアンが、いえ、イエローが。前国王派の刺客によって殺
されてしまったところを」
「…何だって?」
「レッドさんに会う前に、イエローは殺されていたんです。そしてその死体は、確かにボ
ク自身も見ているはずです…チュチュの記憶の中に、死んだイエローを見つめるボクの姿
がありましたから。…ボク自身もそれを、今ならおぼろげに思い出す事が出来ますし…」

 ―…どうして、私が…死んでいるの…?―
 
 それを思った自身の記憶が、霞の中から浮かび上がってきた。そう思った事実がある事
を、誰よりも自分が一番よくわかっている。

「い、イエロー…」
イエローのおじが何か言いかけたが、その声はレッドによってさえぎられた。
「そんなわけあるかよ、何言ってんだよイエロー!!」
「だってレッドさん…それなら全部辻褄が合うんです。死んだイエローの代わりとして森
が創ったガーディアンが、ボクだとすれば…ボクの記憶がはっきりしない理由も、ボクの
方が森の力を持っている事も。前のガーディアンが死んでしまったから、その代わりが必
要だったんです。あの時、ボクは…多分何もわからないまま、逃げている内に。レッドさ
んにあったんです」

 だからナツメは、イエローを殺せた事を疑わなかった。何故なら彼女は本当にイエロー
を、殺していたのだから。まさか彼女がガーディアンであるとも知らず…代わりが創られ
る事なんて、夢にも思わず。そうじゃないですか? とイエローに言われると、レッドは
少し口ごもった。何か言いたい事があるのに、口に出せない…そんな感じだった。
 実際、この話にはおかしな点が沢山あるのに。けれどイエローが嘘を言っているわけで
はない事も確かなのだ。

「でも待って下さい、イエローさん。それならどうして、ホアンさんはここにいるんです
か? ホアンさんが本当のイエローさんだとしたら…それは…」
既に死んでいるという事を、意味しているのではないか。だからこそ新しいイエローが創
られたのだから。
「簡単です。その後…前のガーディアンは、偶然、生き返ったんですよ」
死んでしまったイエローを起こそうと、チュチュが電気ショックを放った。すると止まっ
ていたはずのイエローの心臓が、再び動き出したのだ。それもチュチュの記憶の中からわ
かった事だ。チュチュは状況がよくわからないまま、起きろ! ぐらいのつもりでやった
事なのだが…それがイエローの命を救ったのだった。
「そうして目が覚めてから、ホアンはワタル達四天王に拾われた。そうだよね?」
イエローが膝をついてホアンに目線を合わせ、尋ねる。ホアンは困惑した表情ながらも、
コクンとうなずいた。

「……私、死んだの? イエロー…」
その時点でポケモンの心を知る能力を失くしたホアンは、チュチュの記憶を知る事が出来
ない。だからホアン自身、何がどうなったのかを、今までわかっていなかったのだろう。
「うん。だからボクが創られて、でもその後にホアンは生き返って。…イエローは2人に
なっちゃって…」
心細げなホアンに対し、イエローは無理に笑っているように見えた。
「どっちが本物かと言われたら…やっぱり先に創られたホアンの方が、本当のイエローだ
と思うから。だからボクは……この力を持ってるからこそ、偽者なんだ」
新たなガーディアンとして、ホアンと名乗るべきなのは自分。イエローのそういう思いを
感じ取ったホアンは、焦るような表情のままかたまってしまった。
 イエローはそんなホアンに背を向けて、立ち上がった。


 ―ねえ、チュチュ。私、頑張って強くなるよ。

 ―私とイエローは2人揃って、本当に強いガーディアンになれるように…私、頑張るん
だ。私はもう何の力も持ってないけど、だからその分、強くなる。イエローが喜んでくれ
るように…強くなるよ…。

 新たなイエローの存在を知って、帰る場所を失ってしまったホアン。ワタル達に拾われ
た彼女はしかし、自分の居場所を奪った新たなイエローを、決して恨んだりしなかった。

 ―ワタルはね、イエローがガーディアンとしてふさわしくないから、私が創られたんだ
…って言うんだ。私にもイエローにも、ガーディアンとしての自覚は全然無いけど…だか
らワタルは、私が強くなって、ガーディアンの座を奪い取ってやれって。そう言うの。

 ―でもおかしいよね? 私は元々、イエローだったのに…イエローだった記憶があるの
に。その記憶は多分、私が創られる時にイエローからコピーされただけの、偽りの記憶…
そう言うの。…そんなのって、あるのかなぁ…。

 ホアンは本当にわからなくなってしまった。確かに自分がイエローだったと思うのに、
ワタル達に拾われたあの日。気がつけば自分じゃないイエローが、トキワにはいた。
 どうして自分が2人いるのか、わけがわからなかった…辛かったけれど。受け入れた。
その方が森のためだと思ったから。イエローを憎むよりも受け入れる方が、きっと全て、
上手くいく。そう信じたから。やっぱりイエローの事は、うらやましくて仕方がなかった
けれど…2人で力を合わせる事が出来れば。イエローが受け入れてさえくれれば、私は一
人じゃないから。

 ―いつか2人で森を守ろうね、イエロー。それなら私は…ホアンのままでいいから…。


 そんなホアンの思いまで、チュチュの記憶からわかってしまったイエローは…これ以上
何が言えるだろう。それからのホアンの修行は本当に、辛いものだった。四天王に鍛えら
れたのだから、当然と言えば当然だ。

 そうしてホアンに背を向けて立ったイエローを。
 気がつけば、レッドが引っ叩いていた。

「…レッド、さん?」
「イエロー。お前、ほんっっっとに…馬鹿なんだな…」
レッドの表情は本気で怒っているようでいて、何処かに隠し切れない痛みを帯びていた。
「イエロー自身がどう思おうと、俺が会ったイエローはイエローだけだ。そこに偽者や本
物なんて最初から無いんだ。なのにお前は無理にそれを決めようとして…それでホアンを
苦しめてる事も、自分をどれだけ傷つけてるかも。全然わかろうとしないんだ」
「…………」
「本物だとか偽者だとか、そんなんどっちだっていい事だろう!? 大事なのは今、ホアン
とイエローがどうしたいかって事だけじゃないか!! 俺にはイエローは、イエローでしか
無いのに…何でそんな下らない事言うんだよ!!?」
イエローという存在を、「トキワの王女のイエロー」と固定してしまえば、確かに本物と
偽者を分ける必要があるかもしれない。でもただの「イエロー」なら、同姓同名が何人い
ようと不思議ではない…。
 そして同時に。「レッドが会ったイエロー」は、イエローしかいない。だからレッドに
とってのイエローはあくまでイエローだけで、そこに本物や偽者なんてそもそも関係ない。
 そういう事を上手く説明出来なくて、レッドはもどかしかった。返ってイエローを傷付
けるような事ばかり、言っているような気がする。それもそのはず…引っ叩かれた頬を手
で押さえる彼女の目からは、涙が溢れ出していた。

「…あははっ…」
ぽろぽろぽろ…。大粒の涙をこぼしながらも、イエローは微笑んでいた。

「…イエロー?」
「レッドさん…それってつまり、ボク…トキワの王女じゃなくても、イエローでいいって
事ですよね…」
次々と零れ落ちる涙を指でぬぐいながら、やっぱりイエローは笑っている。
「ボク、イエローのままでいいんですね…イエローでいても、いいんですよね…」
沢山の涙を流してはいるものの…声にも表情にも、安堵の感情が溢れ返ってて余りあった。
「知らなかった…自分自身でいちゃいけないんだって思うのが、こんなに辛い事だなんて
…全然知らなかった…」
「お、おい…」
思わずイエローの肩を両手で掴むと、イエローは泣きながらも、にっこり笑ってレッドを
見上げた。


「―ボク、レッドさんの事が好きです」


 ――――………。

 突然の告白に、レッドだけでなく、場にいた人間全員の頭が真っ白になった。
 いや、全員ではなかった。約一名…。
「すっげー…面と向かって泣き笑いしながら言い切った…」
しっかりわくわくしている人生の達人・その名はゴールドがいたりする。

 しばらくしてから、ようやくレッドが口を開いた。
「あ…あのさ、イエロー…」
そうしてレッドが何か言いかけた瞬間。自分のハクリューの様子の変化に気付いたホアン
が、突然叫んだ。

「――伏せて!!!!」


 半瞬後。

 アマリロの居室の壁の大半が、天井もろともに吹き飛んでいた。ちょうど、人間の腰か
ら上辺り以上の高さの壁が、ほぼ全て。

 そうして割れた所から、もう一匹のハクリューが顔をのぞかせた。
「―ワタル!」
ホアンがそこまで駆け寄っていく。
「遅いぞ、ホアン。さっさと乗れ」
ハクリューの頭上に乗った青年がホアンを促す。ホアンはちらりと振り返った後、竜の背
に飛び乗った。
「―待て!!」
起き上がった者達がそれぞれ飛行用ポケモンを出して、そのハクリューの後を追う。唐突
ではあるが、敵の本拠地へ乗り込む千載一遇のチャンスを、彼らが見逃すはずはなかった。
「俺とシルバーは残ってトキワを死守する!! 後は頼んだぞ、レッド!!」
グリーンが叫び、それにレッドが応える。
「よしきた、任せろ!!」
カツラも残っているが、忘れられているわけではない。現在彼は手持ちのポケモンがあま
りないために、戦力に数えられていないだけだ。レッドはプテラで、イエローはレッドが
敵から奪ったフリーザーでハクリューの後を追う。ゴールドはマンタインでもいいのだろ
うが、これまた敵から奪ったサンダーを使い、クリスもファイヤーを使ってハクリューを
追いかけた。

「…とんだ事になったが…まさかホアンを迎えにくるとはな。おかげで手間が省けた」
残ったグリーンは半ば、苦笑しながら呟いた。四天王の本拠地までどうやって行くかは、
実は最後の難問だったのだ。というのも、ブルーが持っている発信機が役に立たず、それ
が役に立たないような不思議な場所はトキワの森しかないが、森というだけでは探す範囲
が広過ぎるからだ。ぐずぐずしている間に、全ての作戦が無に帰してしまうかもしれない。
「―ああ、そうだ! ブルー君から君達にと、預かっているものがあるんだが」
最初から戦力外なので残ったイエローのおじが、グリーンとシルバーの方へやってくる。
それも予測済みだという表情で、2人はその「預かっているもの」を受け取った。

「さてと…。ここからが本当の、危険な賭けの始まりだな…」
緊張した面持ちで言うグリーンに、シルバーが無言でうなずいていたのだった。

                                       *

 ハクリューの頭上と背で、ワタルもホアンもしばらく無言だったが。最初に口を開いた
のはホアンだった。
「…ゴメンね、ワタル。私、イエローに勝てなかったよ」
「だろうな」
あっさりと返してきたワタルに、ホアンはううんと首を振った。
「バトルとかそういうのじゃなくてね。やっぱり私は、イエローにはなれないみたい」
「…?」



 後ろから追ってくるレッド達を見て、ホアンは溜め息をついた。
「…こうなるのがわかってたのに、迎えに来てくれて…ありがと、ワタル」
「別にお前のためじゃない。お前に預けたポケモンを回収に来ただけだ」
ホアンが使っているポケモンは全て、四天王達から貸し与えられたものだ。修行している
頃から借りていたので、自分でポケモンを育てる事はほとんどしていなかったのだ。
「あのね、ワタル。…私…トキワのガーディアンじゃなかったよ」
「―?」
「私は一度死んで、ガーディアンとしての力を取り上げられちゃったんだって。その後に
偶然生き返っただけの…もうガーディアンでも何でもない、ただの予定外の存在」
淡々と、ホアンは続ける。
「だからワタルが教えてくれた、ガーディアンの事…ガーディアンにふさわしくないのは
イエローじゃなくて。…きっと、死んでしまった私の方だったの」
「………」
ワタルはしばらくの間、黙っていたが…。


「―そうか。それならお前は、もう自由の身だ」


 ホアンは一瞬、何を言われたのか全くわからなかった。
「何処へでも行くがいい。これ以上この戦いに関わるな」
「…え?」
「はっきり言われなければ、わからないか? つまりお前は用済みなんだ」
「ワ…タル…」
だんだんとトキワの森が近付いてくる。そこでハクリューの背から降りれば、もう自分は
四天王ともトキワとも何の関係も無い…あの時、目が覚めた時のように。何処へも行くあ
てのない、たった一人に戻れと。そう言われている。
「やだ…」
先程イエローがこぼしたのと同じくらい大粒の涙が、ホアンの両目から溢れ出た。
「やだ…何処にも行きたくないよ…! 私もう、ここにいちゃいけないの…!? どうして
…ねぇ、ワタル…!」
ハクリューの頭上にいるワタルを見上げて、ホアンは必死に訴えた。
「お願いだからここにいさせて! じゃないと私、何処に行けばいいの? 私はホアンの
ままですら、いさせてもらえないの…!?」
ホアンとは、イエローでなくなった自分にワタルがくれた名前。イエローと同じ意味を持
つのだと、確か彼は言っていた気がする。
「…私…ここにいちゃ、いけないの…?」
その後はもう、涙で声にならない。ワタルは何も答えないまま、ずっとホアンに背を向け
ていた。
「やだ…そんなの、やだぁ…」
泣きじゃくるホアンにひたすらピカチュウが寄り添っている。…そう言えば、あいつだけ
は俺達のポケモンじゃなかったな。

 ホアンから回収したポケモンの内、ハクリューを見つめて、ワタルはある事に気付いた
ようだった。
「…そうか…」
一度だけ後ろを振り返って、自分を追う者の姿を確認する。その目によぎった暗い光は、
誰にも気付かれる事なく…。

 そしてようやく、ハクリューはトキワの森に降り立ったのだった

                                       *

「…ホアン?」
トキワの森に降り立ってすぐに、イエローはホアンの異変に気付いた。チュチュのみを連
れたホアンは、ワタルから少し離れた所で呆然と立ち尽くしている。
「―あいつが四天王のボスなのか」
「らしいっすね」
「ホアンさんが呼んだ名前から考えれば、間違いありません」
レッド、ゴールド、クリスは横に並んで立ち、ワタルの姿を凝視している。相手の手の内
がわからないので、間合いを多めにとっているのだが…。

「目障りだ…さっさと消えるがいい」
若いながら威厳に満ちた重い声に、3人は緊張を走らせる。

 …その次の瞬間に起こった事は、誰が予想し得ただろうか。
「消えないというのなら、消してやるまでだ」
そう吐き捨てたワタルが、ハクリューに何かを命じる。するとハクリューの周囲の空気が
帯電し、エネルギーがどんどんと充填されていく。
「来るぞ!」
レッド達が各々のポケモンを身構える。

「あ…いけない…!!」
最初に気付いたのが、イエローだった。一人だけホアンの方を見ていたから、気付いたの
だ。
 ホアンの素振りと怯えた表情が語るもの……先程のワタルの台詞は、レッド達に向けら
れたものではなく。ホアンに向けて「消えろ」と言い、そしてハクリューが溜めているエ
ネルギーも…ホアンを標的としているその事に。

「『破壊光線』」

「ホアン…!!!!」

 駆け出すイエローと、立ち尽くすホアン。有り得ない方向に曲がる光線…驚くレッド達。

 そして。
 レッド達に向かったはずが軌道を変えた破壊光線は。ホアンを突き飛ばしたイエローの
横腹を、あっさりと貫いていった。


 ずざざざざ…。突き飛ばされたホアンと、横腹を貫かれたイエローは、同じような音を
立てて冷たい地面に転がった。
 違うのはその後…片方は起き上がったが、もう片方は起き上がらなかった事だろうか。

「…あ…」
ホアンの目がイエローに釘付けになる。目を強く閉じ、痛みで歪んだ表情。傷を抑える手、
どんどんと流れ出す血。

 そして…そこに迫る、確実な『死』。




 ―絶対助からない。

 これは絶対、助けられない。

 ワタルの光線にお腹を貫かれて、絶対に助かるはずがない…。


 目の前で血を流し、苦しげに地面に横たわるイエローに対し、ホアンの頭の中には全く
同じ…その言葉しか、浮かんではこなかった。


「イエローーーーー!!!?」
「イエローさんーー!!!!」
レッドとクリスがイエローに駆け寄る。ゴールドはホアンの方へやって来て、その無傷を
確かめていた。
「あんにゃろ…。許せねぇ…!!!」
イエローから目を離せず、かたまってしまっているホアンの肩を強く叩く。
「しっかりしろよ!! 今はあんたの力が必要なんだ!!」
必要…? 私の力が?
「あんたならこの森の事知ってんだろ!? 安全な場所まで案内してくれ!!」
安全な…場所?

 そっか…私、私の事。ワタルは…殺そうとしたんだ…。
 それで私の代わりに、イエローが死んじゃったんだ…。
 ここにいると…イエローみたいに、死んじゃうんだ…。
 死んじゃうんだ…。死んじゃ、うんだ…………。

「………や…」

 ホアンは両手で、頭を抱え込んだ。

「やぁぁぁぁぁぁー!!!!!!」
「――――!?」
ゴールドが止める暇もなく、泣き叫びながら立ち上がったホアンは。
 一度も振り返る事なく、森の奥へと逃げ去っていってしまった。必死に後を追いかける
チュチュと共に。ゴールドは急いで後を追ったが、そもそもこの森が庭であるホアンに追
いつけるわけもない。程なくして巻かれる事になるだろう。

 そうしてイエローが横たわっている地面が広範囲に、どんどんと赤く染まっていく。
「イエロー…!! ちょっと待てよ、しっかりしろよ!!!!」
『破壊光線』に貫かれ重傷を負って横たわるイエローは、まだ意識はあるのか…傷を押さ
え、ひたすら苦しげな顔で呻き声をもらしている。
「こんなの、こんなのどうすりゃいいんだよ…こんなに血が出てるの、どうすりゃいいん
だよ…!!!!」
クリスは蒼白な顔で立ち尽くし、レッドは半狂乱でイエローの傷を押さえる。その手に赤
い血が絡みついて離れない。

「……レッド…さ…」
「――!?」

 自分の傷を押さえるレッドの手に、イエローの手が重ねられる。

「…レッドさ……アンを………」
「バカ、喋るなよイエロー!! 傷にさわるだろ!!」
何を気にしているかは知らないが、レッドは本気で腹が立った。

「レッド、さ、ん……ホアン、を……追、い……」

 ホアンを、追いかけて下さい。
 イエローの口が確かにそう発音しようとするのを見て、レッドは呆然とした。何故なら
その言葉の後には…ボクはもう、ダメですから。そんな言葉しか続かないような気がした
から。
「っのやろ…!! お前まだ、自分は偽者でホアンが本物だからとか言う気なのかよ!! だ
からホアンを追いかけろって!?」
「…………」
「だから俺には、イエローはイエローだけだって何度も言ってるじゃないか!! 俺が会っ
たイエローは、俺が守りたいって思ったイエローはイエローだけなのに!!」
イエローは痛みを持ちながらも苦しみを通り越したような虚ろな目で、レッドを見上げて
いる。
「俺はイエローを守るって約束したのに、俺がそうずっと決めてたのに!! 何でこんな勝
手な事するんだよ!!!!」
湧き上がる怒りは、自責の念。ホアンをかばったイエローも、かばわれたホアンも…本当
は、どうだって良かった。

「俺がついてて、何でこんな……何でこんな姿に、させちまったんだよ…」
 …イエローの目に浮かんでいるのは、ひたすら、ホアンへの思いとレッド達の心配のみ
だった。だからこそレッドは、自分が情けなくて仕方なかった。

「何で、こんな……………好きな子一人、守り通せないなんて………」
涙目で立ち尽くすクリスと、ひざまずいてまだ傷を押さえ続けるレッド。…段々と目から
光が消えていくイエローを、ただ見ている事しか出来ないのだった…。

本気でお久しぶりです。やっとこさPSLです。
なのにいきなりどんどん進む話。正直かなり急いでます、ゴメンなさい;
計画通りちゃんと書くって、すんごい難しいですね…(遠い目)
矛盾とかバランスとか構成とか何とか……自分の未熟さ噛み締めとります↓
でも実はもう大体、話は書き終わってます。後は手直しするだけです。
一つの話を書き終えたのって、ひょっとして初めて!?(オイ/しかも今感動するな)
なので今後のUPは、遅くなり過ぎないよう注意したいです。…多分…(^^;)