「それでは、トキワ奪回についての行動は明朝より開始するものとする。それぞれ自分の
役割は把握しているな?」
作戦会議のようなものを一日かけて行った後、グリーンが全員に向かって最後の確認をす
る。レッド、イエロー、ゴールド、クリスの4人は厳しい面持ちでうなずいた。
「こちらにはどう考えても手駒が少ない。事は限りなく隠密に行わなければならない…そ
れを必ず、肝に銘じることだ」
そんなのわかってらぁよー、などの声が室内に響く中。イエローの顔付きは昨日よりも一
層、暗い緊張に満ちたものとなっていた。

 …本当にいいんだろうか、この人達に助けてもらって。

 トキワはもうほとんど敵の手に落ちている。そんな国に向かうなんて、命の危険を意味
しているのに。誰かが死んだって全然おかしくない事態なんだ、これは。

 そもそもボクが旅に出たりしなければ、こんな事にはならなかったかもしれない…少な
くとも、ここにいる人達を巻き込む事は無かったはずだ。でもそうなれば、一体トキワは
どうなってしまったのだろう…ボクなんかの小さい手で、守り切れていたはずもない…。

 様々な思いが頭をかけ巡るのに、何だか思考が堂々巡りで上手く口に出せない。そんな
ままで結局、行動開始が明日の朝という事になってしまった。
 わかっている。嫌という程わかっている。レッド達の手を借りなければ、トキワは完全
に前国王派の手に落ちてしまうという事が。トキワの事を考えるならば、レッド達の力を
借りる事に躊躇してはならない。2年前にトキワの人達が選んだ事だ…前国王よりアマリ
ロ王女を望む事は。ここ2年、トキワはとても平和だった。人々も自分を慕ってくれてい
た。あの人達が再び、軍国主義的な体制の下で自由を奪われ、年中暗い顔付きとなってし
まう事は…本当に嫌だった。イエロー自身、そんな国には住みたくなかったから。
 それでも。レッド達を傷付けたくないのなら、決してトキワに行かせてはならない。そ
の思いがイエローの頭に根付いてしまい、どうしても離れてくれないのだ。

「どうして、ボクは……」
そして口に出せた言葉は、それが限界だった。
「…イエロー?」
イエローの暗い顔付きに気付いたレッドが声をかける。しかしイエローはレッドの方を見
ずに、すっと立ち上がった。
「すみません、ボク先に休ませてもらいます…」
誰が何を言う間も無いまま、イエローはその部屋を出ていた。
 与えられた客室のベッドでごろんと横になってみる。ぼーっと天井を見つめていると、
不意に…涙と共に、ずっと抑えていた言葉が自然に口をついて出た。
「どうして、ボクはいつも……自分自身すら守れないんだろう………」
自分で言っている言葉の意味もわからずにイエローは。そう言った直後に、心を決めてし
まった。
 イエローはそっと部屋の窓を開けると、キャタピーのピー助に吐かせた糸を使って部屋
から抜け出した。



 トキワへの道を歩き出したその時。背後から聞き慣れた声が、聞き慣れていた時より数
倍厳しい調子でかけられた。
「何処行くんだよ、イエロー」
イエローは振り返らない。…振り返れない。抜け出した事を気付かれてしまったこの事態
は、おそらく自分で自分を笑うしか出来ない程に馬鹿馬鹿しい結果だったから。
「お前一人でトキワに行く気なのか。それでトキワが助けられるなんて思ってるのかよ」
「………」
「わかってるだろ。行ったら殺される…城にこもったアマリロが偽者だとわかれば、標的
は自分一人に向けられる。そんなとこだろうけど、それが一体何の解決になるんだよ」
「……レッドさんには、わかりません」
ようやく振り返ったイエローの目には、怒りとも悲しみとも知れぬ感情が有り余って溢れ
出していた。
「ボクは死にに行こうだなんて思ってない。そうなっても仕方が無いけど、最後まで絶対
諦めない。それが王女として、トキワのためにボクに出来る精一杯だから」
「…嘘だ。そんな理論破綻してるって、自分で気付いてるくせに」
トキワのためを本当に思うならば、玉砕覚悟で無謀な事をするのは絶対に間違っている。
それで得られるのはただの自己満足…トキワのために戦ったという、自身への言い訳だけ
だ。その後結局、トキワは敵の手に落ちる事になるのだから。
「レッドさんにはわかりません…!! ボクはレッドさんと違って、本当に王になるべき
人間じゃなかったんです。ボクがこんなに弱くなければ、レッドさん達をこんな事に巻き
込まずに済んだのに…一人だってきっと、トキワを守る事が出来たのに…!!!」
「そんなの無理だ! 俺達がいくら強くったって、たった一人で国を守る事なんて出来る
わけないだろ!!」
「それでも…それでもボクは、レッドさん達…レッドさんに死んでほしくない…!!!」
駆け寄ったレッドがイエローの肩を掴む。イエローはレッドから目をそらしながら、レッ
ドさんにはわからないと泣きながら繰り返していた。

 …わかっている。トキワの人達よりも、レッド達の安全を望んだ自分。そんな自分に王
の資格は無いのだから…軽蔑されて当然だから。トキワが敵の手に落ちる事がわかってい
ながら、こんな行動に出ようとした自分の事を。何より自分が一番、そんな自分が嫌だっ
たのだから。

 トキワのために死んだ私に、こんな私は許されない。
 どうしてかそんな思考が、イエローの頭から離れなかった。

「………ったく」
しばらくたって、イエローが少し落ち着いた後。レッドが先程の厳しさは嘘のような優し
い声で、イエローに語りかけていた。
「バカだな、イエローは。本気で間に合うと思ったのか? 俺達に追い付かれずに事を終
えられるなんて、本気で思ってたのかよ」
「………」
「イエローがいなくなれば、俺達それこそ、死に物狂いで追っかけて…作戦も何もなく、
負けちまう可能性の方が大きいってのに。俺達のためを思うなら、一度動き出した歯車は
止められないんだよ、イエロー」
「…どうして、ですか。ボクがこれだけ、嫌だって言ってるのに」
「決まってるだろ。俺達だって…俺だって、イエローには死んでほしくないからさ」
それを聞くとイエローは、大げさに首を振ってみせた。
「護衛の仕事はもう終りです。レッドさんにはボクを守る義務なんてありません」
「バカ言うな。そんなのなくたって俺はイエローを守るって決めてるんだ。グリーンはト
キワの力になるって決めてるし、ゴールドとクリスはそれを手伝うって決めてる。そこに
イエローの意志なんて関係無いんだ。だから勝手な行動に出るとみんなが迷惑するんだぞ」
……レッドは軽蔑しないのだろうか。国を半分見捨てた王女の事を。
「義務なんて最初から、何処にも無いんだ。イエローだけが国を守らなくちゃいけない事
も、全てイエローだけの責任なんて事も…そんな事、本当はないんだよ」
「だって…ボクはトキワの王女なのに」
「ああ、そうだ。王女として全力で、トキワを守らなければいけないのは当たり前な事だ」
だったら。ボクがした事は、本当にいけない事だというのに。
「…でも、誰にだって限界があるだろ。これがイエローの全力だったんだろ。その事は多
分、大切な人がいる人間なら…誰にも責められる事じゃないんだ…」
少なくとも俺には、絶対に責められない。そう言ってレッドは、そのままイエローを抱き
しめていた。
「イエローが俺達を守りたいって思ってくれたみたいに、俺もイエローを守りたい。…イ
エローを泣かせるような事は、絶対にしないから…絶対勝つって約束するから…」
「……レッド、さん…」
その言葉には何の根拠も無い。それなのについつい、信じたくなってしまう…このまま自
分の迷いを預けてしまいたくなる。何かあれば、後悔するのは自分だろうに。それすら受
け入れてしまえるのではないかと思う程、レッドの胸が温かかったから。

 そして2人はそれぞれの部屋に戻った。明日の戦いに備えるために。



 ―そもそもの始まりは…一体何だったのだろう?


PSL本編より本当は没カットしていた部分、プロローグ・予告編として復活です。
プロローグもエピローグも本当は完全に、自分にとっては蛇足なのですが。
ポケスペの世界観にはこんな暗い、妙なラブラブ(死語)はいらないのです(笑)
あ。もしも初めてPSLを読まれる方には、初めまして!(遅)
これは本編を全てUPしてからUPしたプロローグです。よって予告編もどきになっています。
本編は(多分)こんなに暗い話じゃありませんよ? 楽天的で能天気なファンタジーもどき…?
そしてこれを見ればわかるように、レイエ推奨です。最初に忠告。
その他はわずかにゴクリ、グリブル風味が混ざっているかも…風味に全然止まってますが。
しかも後者はどちらかというと、カップリングというよりコンビ的です。
まだまだ拙くて稚拙なお話ですが、読んでいただければ幸いなのです〜(^^;)