「ピカ、『電磁波』!!」
「―!!?」
洞窟に入ってからも護衛として外に出していたピカチュウに、イエローからは離れる事な
く行える技の指示を出す。『電磁波』は主に相手を麻痺させるために使う技だが、突然の
自身を縛ろうとするその力に、青年は正直当惑を隠せない。
「今の内に―――!!」
入り口の方を目指したとしても、青年がそこを塞いでいる以上、レッド達もラティエルも
外に出る事は出来ない。
「―――よし! フッシー、『つるのむち』!!」
「―!? 召喚士か…!? また厄介な…!!!」
しかし何故かフシギバナのそのつるは、洞窟の外から中に向かって伸びてきて、青年を背
側から拘束していた。完全に不意をつかれた青年は、つるに引っ張られて洞窟の外へと今
まさに引きずりだされ……――

「―あ」
「―あ゙」

 …この洞窟の入り口の上限は、青年の身長をそう易々と通してくれる程には高くなかっ
たわけであり。
 ――ゴン!! と派手な音をたてて、外へ引きずりだされる際、思い切り頭をぶつけた
らしい青年は、まさに大きな星をちらつかせる勢いで違う世界へと旅立ってしまった。

「あちゃー…とりあえず外に出させるつもりってだけだったのになぁ…」
ピヨピヨばたんきゅ〜……という感じで目を回している青年を、フシギバナも困ったよう
な様子で、とりあえず地面に解放する。
 元々モンスターボールに入っていたフシギバナは、入り口を塞いでいた青年と入り口と
の僅かな隙間から、外に向かって放たれていたのだ。いつも釣竿を使って意外な場所から
ポケモンを呼び出す、イエローの真似をしてみたレッドというわけだった。
「でもま…終わり良ければ全て良しって事で」
おっしゃ、という感じでレッドは、唖然としているラティエルの方へと向き直った。
「良かったら今の内に逃げろよ。アイツは当分あのままだろうし」
「………」
入り口が何とか開放された以上、最早役に立たない隠れ家にいる必要は誰にもないだろう。
ラティエルは沈黙を守ったままだが、少しフラフラとしているような足取りながら、立ち
上がってレッドがいる辺りまでゆっくりとやってきた。

「………アレ……? ……ここは……?」
ようやく少し体力が回復したのか、夢うつつのようだがイエローが目を開ける。その様子
を見て、一安心したレッドだったが………。

「………――――あれ?」

 突然、レッドの全身から物凄い勢いで力が抜けていった。わけもわからず周囲は暗闇に
包まれていき、イエローが起き上がる姿を見る事も出来ず、レッドの意識は唐突に何処か
へ堕ちていったのだった。
 レッドさん!? と驚くイエローの声すら、耳には届かない。…ただ一つ、わかった事
はと言えば、それが起きる寸前にラティエルがすぐそばまでやってきていて、一瞬だけ体
に何か痛みが走った事ぐらいだろうか。

―ピカ、フッシー………イエローと、ラティ、エル、を…………

 それでも、意識が完全に闇に包まれる直前まで、気になった事はただ一つだけ。
 2人を守らなきゃ………せめてお前達だけでも、悪魔から2人を守ってくれと。

 そうして倒れこんだレッドは。この後に何があったのかは、当然ながら知る由もない。

                                       *

「……―!!?」
それからどれだけ、時間が経過していた事だろう。倒れこんだ時と同じように、唐突に闇
の中に光がさしてきた。レッドは思わず、ガバっっ!!! という感じで、激しい勢いと
共に起き上がっていた。
「きゃっ!?」
自分のすぐ横にいたらしい影に、危うくぶつかる所だったらしい。
「って…あれ…!? ラティ…エル?」
「………。………目が、覚めたのね」
ふう、と息をつくラティエル。レッドが目を覚ました事にかなり安堵しているらしいその
様子に、何故かレッドは、微妙な違和感があった。理由はよくわからないが、目が覚めて
から非常に体が重く、全身の脱力感にも気力で耐えなければいけなかった。

「えーっと…ここは? 俺は何でこんな所に…―そうだ、イエローは!?」
森の奥深く、木々の間から陽の光がもれてくる小さな広場でレッドは倒れこんでいたが、
ピカチュウとイエローの姿が、周りの何処にも見えなかった。レッドの真横で座っていた
ラティエルは、さぁ…と、レッドの視線から目を逸らすようにして答えた。
「私が連れてきたのは、貴方一人だけだから。あの悪魔と一緒にいるんじゃないかしら」
「何だって…!? それじゃ早く探さないと、下手したらイエローが危ないじゃないか!」
「………」
焦るレッドの目は正視しないラティエルだったが。何故か少し、不思議というか納得のい
かない顔つきをして、再びレッドの方を見たのだった。

「そう思う程、アイツが危険だと思ったのなら…どうしてさっき、そのケモノで致命傷を
与えなかったの?」
レッドの腰のボールを見て言う。フシギバナとピカチュウが欠けているが、そこにはまだ
まだ5コのボールが残っている。その1つ1つに、人間では到底敵うはずもない強大な力
が存在している事を、どうやらラティエルは悟っているようだ。
「って言われても…ポケモンは、誰かを傷付けるための道具じゃない」
ラティエルのその疑問こそ不可解だという雰囲気ながら、レッドは笑って、疑問に答えた。
「俺がフッシーを出したのは、アイツと戦うためじゃなくて。ラティエルを逃したかった
だけだから」
「………………」
きょとん。と、まさに不可解だという顔をして、ラティエルはじーっとレッドの目を見た。
「信じられない……出会ったばかりの私を助けるために、あなたはアイツに喧嘩を売った
のね」
「いや? だって、ラティエルはそんなに悪い奴じゃなさそうだし。それにアイツ、吸血
鬼だって自分で名乗ったじゃないか。コイツを傷付けた犯人は多分、アイツの事だし…」

 ――と。そうして腰のボールの1つ、川で保護したポケモンの様子を見たレッドの表情
が凍りついた。
 そのポケモンはさっきと同じように、ボールの外からもわかる程の威嚇を顕わにしてい
る……明らかに、レッドのすぐ横にいるラティエルに対して。それが何を意味する事なの
か…レッドの頭には先程の青年の言葉が、今頃になって唐突に蘇っていた。

― 同族の気配は 同族が一番 感じ取りやすい ―

「何で―――」
そんな事を考えてしまうのだろうと、レッドの疑問はそちらに向かった。ラティエルは背
の高い青年でもなければ、髪は長いし青いわけでもない。そのポケモンが怯えているのは、
偶然だろうと。そう思うのに……。
 ―この晴天を雲が隠し、暗い雨の中にラティエルが立っていたとしたら。その紫の髪が
青っぽく見えてもおかしくないんじゃないかと。そういう風にラティエルに疑いを持って
しまう自分の直感を、レッドは何故と思わずにいられなかった。

 ラティエルの方でも、場の空気がわずかに不穏になった事を感じ取ったらしい。
「―それじゃ、私はもう行くから。助けてくれてありがとう。お礼に貴方達の事は……」
言い終わる前に立ち上がり、レッドの姿も見ずに去っていこうとする。
「あ……ま、待てよ!」
―貴方達の事は、何だ? 得体の知れない不安を感じたレッドは、いつになく慌てて立ち
上がり、ラティエルの肩を掴もうとして……。
「―!!?」
「…!!!」
ラティエルの肩にはケープがかかっておらず、素肌に触れる事に一瞬躊躇してしまったせ
いか、レッドの手は大きく目標を外れてしまい。
 出会った時からずっとラティエルがつけていた頭飾りに手が当たり、しまったと思った
時には既にそれは、外れてしまっていた。

 ―見なければ良かったと。そう思って表情を歪めたのは、ひとえに目の前で立ち尽くす
ラティエルが、それを見られた事に対する苦痛を顕わにしていたからだ。
 頭飾りが外れた下には、当然ながらラティエルの耳が存在している。しかしそれは、人
間には有り得ない形をしている。ちらりと頭をよぎった思いは、まるで犬の耳みたいだと。
この信じられない状況を前に思考を停止したレッドの頭は、ようやくそれだけ考えついた。
「あ…ごめ…!」
「…っ……!!」
そのレッドの、歪んだ表情と上手く声にならなかった謝罪を、どう受け取ったのか。彼女
は屈辱にまみれた表情となり、レッドを咄嗟に突き飛ばして、ばっと長いケープを派手に
翻していた。

 …次の瞬間、レッドの前には。真摯な顔つきで一振りの剣を強く握り締める、長身で髪
の短い…真面目そうな男が立っていたのだった―――

                                       *

 時間は少し戻る事になり。レッドを突然連れていかれて、わけもわからず途方に暮れて
いたイエローは。自分と同様、置いていかれたフシギバナの近くに倒れている青年を、膝
をついて心配そうに真上からのぞきこんでいた。
「あのー……大丈夫ですか……?」
「……………―――あり?」
イエローの声に反応し、ぽけー…とした様子ながら、うっすらと青年がその目を開ける。
やがて青年はゆっくり起き上がると、不思議そうな表情をして、隣にいえるイエローとそ
の周囲をきょろきょろと見回していた。

「えーと……君、誰?」
「ボクですか? ボク、イエローっていいます…けど、あなたこそ誰ですか?」
一応フシギバナとピカチュウの記憶を読む事で、この青年は先程レッド達の前に現われ、
悪魔と名乗っていた事はわかっている。
 青年は1度目を閉じると、ようやくそのぼけっとした頭を切り替える事に成功したよう
で、凛とした切れ長の目で再びイエローを見直していた。
「そっか、さっき横で眠ってたコか。オレは……」
…と、そこで。青年はううんと考え込んだ。
「ヨクル…と言ってもこの世界じゃ漢字は通じ難そうだし……ちょっとずれるけど、仕方
ないか」
などとよくわからない躊躇をした後。淡く笑って、青年はその名をイエローに告げた。
「オレはアラス。吸血鬼だけど一応、悪魔払いの死神やってもう何年になるかなぁ」
記憶を辿るように空を見上げる青年に、イエローはどうしてか気持ちが少し温かくなり、
わずかながらも微笑んでいた。
 レッドは早とちりをしたのだが、イエローは不思議と最初から、この青年に対して警戒
の気持ちは感じなかった。ポケモンの記憶でわかった犯人の姿は、青年とは違ったし、何
よりかによりこの青年…一言でいうなら、イタズラ少年のような雰囲気を漂わせてはいる
が、敵意や悪意というのは全く感じられないのだ。

 何はともあれ。目覚めた青年はイエローからまず、自分が意識を失ってからの話を聞く
事にしたようだ。……が。
「えっと…ボクにもよくわからないんですけど、レッドさんが倒れてフシギバナのつるが、
ボクとラティエルさんは逃げろってレッドさんが連れていかれて……」
実際に起こった事としては、ラティエルが近づいた瞬間に倒れたレッドを見たフシギバナ
は、何故かそのつるをラティエルに向け、彼女を捕縛しようとした。しかしラティエルは
手袋を取ると、まるでケモノのような素の手を晒し、自分を捕らえようとするつるをその
爪で切り払っていた。驚くイエローを尻目に、彼女は軽々とレッドを抱えると。
―このままじゃ駄目だから、借りていくわ―
と言い残し、その場を去ってしまったのだった。

 驚くべき事にイエローのあの説明のみで、彼はその時の状況をほとんど悟っていた。
「そっか………それならまぁ、もう一人の方も無事だと思うけど。ところでオマエ達は、
どうしてこんな僻地の島でサバイバルなんてしてるわけ?」



淡々と話す青年の口調に、あれ? と一瞬、イエローは違和感を持った。
「ボク達、ちょっと前の嵐で何度も漂流して、ここに流れ着いたんです。それからは島を
出ようとする度、嵐に邪魔されて身動きがとれなくて…」
「――あ、ゴメン。それオレのせいだ。フロウ・ラバンドを逃さないために、この島には
結界を張ってあったから」
「フロウ…ラバンド?」
「オレが追ってる魔族の名前だよ。ほんとはムキになって捕まえる程の魔族じゃないんだ
けど、これも仕事だから仕方ないんだよね〜」
サラリーマンは辛いよねーと、よくわからない溜息をつく青年。
「でも、結界って…この島全体に、ですか?」
「そう。何人たりともこの島から出られないように、また、この島に近づく者は嵐で阻ま
れるように。…のつもりだったんだけど…むしろオマエ達を呼び込んじゃったみたいだな」
と、ここで再び違和感を持ったイエローは、何という事のないその正体に気がついた。最
初青年は、イエローの事を「君」と言っていたのに、今は「オマエ」になっているのだ。
何かよくわからない人だなぁと、男装している自分も同じように思われている事には全く
気がつかないまま、2人はお互い、マイペースに打ち解け合っていたのだった。

 とりあえずレッド達を捜し、歩き出した2人だった。青年の方は、自分の目標を捕らえ
れば結界を解除してくれるらしく、ならばイエローにとって後の問題は、いかにレッドと
合流するかのみとなる。
「それにしても、ポケモンもないのに結界を張れるなんて、吸血鬼って凄いんですね」
「オレからしたら、ほとんど力もないのにそれだけのケモノを従えてるオマエ達の方が、
不思議でならないんだけど…召喚士というより獣使いだったのかな?」
?? と、イエローが不可解な顔つきで首を傾げる。
「従えてるとか、そういうのじゃなくて…みんなは、ボクの友達です。この島のポケモン
には警戒されたままだけど……――!」
青年にはレッドのいる場所はわかるらしく、その青年の案内通りに進路をとっていた2人
だったが。その道の途中で、またもや傷付いたポケモンにイエローは出くわしていた。傷
はあまり深くないようだが新しく、動けないまま必死に2人を威嚇していた。
「返り討ちにあったのかな。そりゃ、あれだけこの島の生き物を傷付けた奴が通れば襲い
もするよね。どうやらこっちで道順はビンゴ、と……」
およ? と青年は、急いで傷付いたポケモンの方へ駆けていくイエローを見て不思議そう
な顔をする。
「近づくと危な――………―え?」
威嚇するポケモンに怯む事なく、その傷の上にイエローは手をかざすと…例によって例の
如く、不思議な光がそのポケモンの傷を完全に癒していた。
「……………」
青年は目をぱちくりとさせて、目の前の光景を立ち止まって見つめていた。

 …その後、すっと目を閉じてからもう1度、青年はイエローの方を見た。傷が治ったポ
ケモンが逃げていってからイエローに近づくと、イエローは眠たそうにゴシゴシと目をこ
すっていた。フシギバナのつるを回復してやった事もあり、いつもより睡魔の到来が早い
感じだ。
「―――大丈夫?」
「え? あ、はい、何ともありません。すみません、立ち止まっちゃって……」
「ううん。さっきのケモノ、傷が治ったみたいで良かったよ」
ふわりと笑うその顔に、またもや、あれ? と、イエローは違和感を持つ。
「……それ、『木』の力だね」
「―え?」
「植物こそ純性の聖性持ちだから。他の力が何かを奪うのに長けてる事が多いのに対し、
木は、与える割合の方が大きい。……その力、うっかり使い過ぎたら大変な事になるよ…
…気をつけた方がいい」
そう言うと彼もまた眠たそうに、ふ…と1度、目を閉じる。次に目を開けた時には、既に
今まで通りのイタズラっぽい表情に戻っていた。
「―さ、いこーぜ。捜してる奴らは後もうちょっとだし」
「あ……はい」

 何がどうしてそんな事がわかってしまうのか、青年は、人間やその他の生き物の気配を
辿る事が出来るらしい。最も今回の標的のように、少し特殊な事をして隠されてしまうと
わからないので、今は隠すとかそういう芸当の出来ないレッドの方の気配を追う事で、彼
は道を選んでいた。
 青年が住む所では普遍的な力らしいが、吸血鬼って凄いなぁと、またもイエローは感じ
ずにいられなかった。
 …ところでその話。その方法は当然、レッドと青年の目的が、同じ場所にいた場合のみ
通じるやり方なのであって。
「…―あ…イエロー?」
「レッドさん!!」
大きめの木を背にしてペタンと座り込んでいるレッドに、大丈夫ですか!? と駆け寄る
イエローと、あちゃー…と頭を抱える青年。
「フロウ・ラバンドの方はやっぱし、もう逃げた後だったかぁ……めんどくさいなぁー、
今度は何処の世界まで跳んだのやら……」
やはり先程、意識を失っていたあの数十分がネックになったらしい。それだけ時間があれ
ば当然、獲物もあった事だし、力を回復して逃げられるよなァ…と、当たり前の反省を手
早く済ました。結局逃げられたとはいえ、そばにいた人間が無事だったのは一安心でもあ
り…それが余計に、彼にとってこの仕事は、「面倒くさい」ものであるという思いを一層
強くする事となった。

(ほんと、本来なら魂ごと食い尽くして力を回復すれば早いだろうに…どうやら血だけ、
少し奪った程度か)
レッドが倒れた経緯を、イエローは知らずとも青年は既に悟っていた。フロウ・ラバンド
はマルクシアスという有名魔族の系譜で、狼の耳と手足にグリフォンの羽、そして魔蛇の
尻尾を持った亜人だ。彼女の主食は主に人の血液であり、その蛇の尾に咬まれた者は魂を
吸い取られるのだが……あまり時が経たない内に魂を返せば、再び目覚める者も存在する
という。レッドがそうであったのは幸いだったが、この辺りの話はシビアであるため、彼
らにはふせておく事にした青年だった。
(…助けられたからって殺さないなんて、義理堅い奴。そんな奴わざわざ捕まえる必要、
ないってもんだといい加減上も気が付いてくれないかなァ)
まぁ色々、問題がないわけでもないんだけどさ。と、青年は、目の前にいる体調の悪そう
ながら元気なフリをするレッドと、それを心配するイエローを見ながら苦笑していた。

「ケモノの血じゃ人化する程度の力すら戻らないけど、人間の血って極上だもんなー…」
フロウ・ラバンドがここから逃げる際、使ったと思われる力の名残、わずかに残る空間の
歪みを見て溜息をつく。彼女は魔族であるため、力のある異界の人間から召喚されるとい
う事が有り得るのだが、それを利用して自ら異界へ召喚されて跳ぶという反則技を使い、
今までずっと逃げ回っている。逆召喚と青年は勝手に呼んでいるが、厄介なのは、召喚主
の定まっていない召喚術であるため、辿り着く世界が何処であるのか全く予想がつかない
事だ。
「全く、おかげでうちへ帰るのも一苦労じゃないか…しんどいけど天界経由するしかない
のかな…」
そう言いながら青年は、何処からか突然、槍のように長い両刃の武器を取り出していた。
レッドとイエローが驚く暇もなく、歪んだ空間を更に切り開く。

「―じゃ、アイツ追っかけなきゃいけないから、オレはもう行くね。そうそう…後は…」
閉じようとする空間を右手の武器で固定しながら、余った左手を青年は宙に掲げた。
 ―さっきのお礼をしとかないと、と。意地悪そうな微笑と共に、レッドの方を見る青年。
左手の周囲には水のような何かが現われていて、透き通る薄い青の光がそこから周囲に放
たれていた。
 その光が突如、レッドとイエローを包んだ。驚く2人に青年は、
「おかげでまだこの仕事、続けられそうだし。……助けてくれて、ほんとサンキュな」
レッドとイエローはひたすら唖然としたままだったが。2人を包んだ光が消える頃には、
青年の姿も歪んだ空間へと消えてしまっていた。

「………何だったんだ? あいつ………」
立ち上がってキョロキョロ辺りを見回すレッドだったが。最早青年の姿どころか、確かに
今まで歪んで見えていたはずの周囲の景色も、全く正常に戻っていた。
「さぁ……悪魔払いの死神ってボクはきいたんですけど……――って、レッドさん?」
先程まで、いくら元気そうなフリをしても体調が悪かったはずのレッドが、全くピンピン
して立ち上がっている事にイエローはようやく気がついた。
「立ったりして大丈夫なんですか、レッドさん?」
「―え? あ……ほんとだ、大丈夫だ…」
レッド自身ですら気がついていなかったようだが、イエローもすっかり、先程までどれだ
け自分が眠かったかを忘れる程に実は回復している。
 …あまりに自然なその回復に、2人は何となく。
「………えーと…その、何ていうか……」
「多分…深く考えても無駄なんだろうな、こういう事って」
お互いそういう結論に達したようで、顔を見合わせて2人は苦笑した。

「じゃ、行くか、イエロー」
「はい、レッドさん」

 空には雲一つない晴天が広がっている。2人にも仕事があるのだから、いつまでもこの
島に留まってはいられない。

 そうして駆け出した2人の後ろ姿を、惜しげに見つめるあるポケモンの姿があった。も
うある程度傷は治っているし、仲良くなれないなら放してやろうと、ボールから解放され
ていたそのポケモンは……2人の姿が見えなくなるまで、ずっとそこから離れなかった。

 ただひたすらに、その僅かな間の邂逅を惜しむように……ずっと彼らを、静かに見送っ
ていた……。



FIN



おかしいなぁ…Atlas'キャラではアラス中心のはずが、フロウ主体の話になってました…。
物語を作る時はいつも、実際に書きながら細かい内容を考えていくというクセを持っているので、
書き上がるまでどうなるか、本人にも実はわからないのです(笑) 何て行き当たりばったりな奴なんだ。
もっとバトルロイヤルな内容にする予定だったのですが、前後編でさっさと終わらせようと思ったら、
えらくこぢんまりして盛り上がりのない話になってしまいました↓
機会があれば書き直したいデスね…漂流編の方も少し、手直ししたい部分はありますし。

ええと、ここまで読んで下さった人は本当、ありがとうございました。
Atlas'の紹介にすら全然なってないようなオマケですが、もし少しでも興味があれば、
まだ全然終わってないので恐縮ですが、良ければAtlas'も見てやって下さい。ではでは〜。