「………あーーー…………」
目が覚めて最初に出てきたのは、寝起きらしいただの間が抜けた声。あまりに太陽の光が
きつく自分を照らしているものだから、眩しくて目が開けられない。だから目が覚めて最
初に見たものは、日光を遮断しようとしている自分の手。

「………あーーー………?」
ちらちらと。しつこく指の隙間から漏れてくる光を、たまに何かが遮っている。どうやら
誰かが自分の顔を、真上から覗き込んでいるらしい。日差しに溶け込む黄色い髪が、微か
に見える……眩しさにひたすら目を細め、しかめっ面をしていたレッドはようやく少し、
微笑んだ。

 ―イエロー…少し前から護衛の役目を引き受け、共に旅をしていた少女の名前を呼ぼう
とする。少女はとても明るい、たんぽぽの花のような黄色い髪をしている。ちょっとだけ
ワケ有りで、普段は麦藁帽子の中にその長いポニーテールを封印しているため、ぱっと見
はまるで無邪気な少年のような姿なのだが。その実、この世界に住む種々のモンスターを
携帯使役するポケモントレーナーという、戦う力を持つ者達の一員…になってから、1ヶ
月にも満たないくせに、本人無自覚でどんどんと才能を発揮していき、あわやこの間は裏
世界の実力者と言われる四天王の一員まで、奇襲とはいえ退散させてしまった。正直、末
恐ろしい才能を持った少女なのであり、しかも無自覚である所が一番性質が悪い。
 それでも少女は、本来、戦うトレーナーではなく守るトレーナー。ポケットモンスター
と呼ばれる彼らと共に生き、癒し、その思いを読み取る事の出来る存在であり…またそん
な力に相応しい、とても優しい心の持ち主だった。

「イエロー……」
やっと目が光に慣れてきたので、少女の名前を口に出して呼んでみようと……した、所。
…あれ? 今、覗き込んでくる真上ではなくて、視界の端に、イエローの姿が見えたよう
な気がする?

 ばっと目を見開いて、上体を起こすレッド。突然起き上がった彼を、今まで覗き込んで
いた人影はうわっと驚いて避けたようだったが。そんなことよりレッドには、大急ぎで確
認しなければならない事があった。人影など全くわき目にもふらず、目の端に見えていた
イエローの元へ……力なく砂浜に倒れて、波にうたれているところを、駆け寄って必死に
体を揺さぶった。
「イエロー、しっかりしろ、イエロー!! 大丈夫か!? イエロー!!!」
思い出すのは、四天王と後一人を撃退して、グレン島というグレン公国のある島まで海を
渡っていた時のこと。突然の嵐…だけでなく、渦潮、竜巻、雷雨、暴風という、この海で
有り得そうなありとあらゆる災害が発生する等という異常に見舞われてしまい、少しでも
対処出来るポケモンを総動員して難を凌ぎ、何とか手近の避難場所を求めてこの島の近く
まできたはいいものの。

 …あれは一体、何だったのだろう。一瞬だけの事だったが、最後の最後で、全く不可思
議な現象が起こったのだ。一言で言えば、世界が歪んだ…としか、言いようがない。それ
に巻き込まれた事によって、レッドとイエローはポケモンを制御するタイミングを失い、
海に投げ出されてしまった。
 幸い既に、島の方へと向かう海流のある距離まで来ていたので、こうして無事漂着出来
ているわけだが…だが、自分が無事でも、イエローもそうだとは限らないのだ。
「イエロー、目を開けてくれよ! イエ………―あ?」
………。必死にイエローを揺り起こしていたレッドの目から、急激に力が抜ける。

「何だ……寝てるだけか」
……す〜〜……。安らかな寝息と共に、幸せそうなネコ口で微笑んでいる寝顔を間近で見
せ付けられて、レッドは本気で脱力し、ペタンとあぐらをかいて座り込んだ。
「ったく、心配かけるなよなぁ…っていうか普通、これだけ揺すってたら誰でもすぐに目
覚めるだろ?」
つんつんと前に見えている背中をつついて、ある事に気付いた。イエローの髪がむき出し
になって、痛いことに砂まみれになっている…はいいとして。
「麦藁帽子が……失くなってる…」
この場合、あの最悪の自然環境から、生き残れただけでも良しとしなければいけない。い
かに強固に留められていた麦藁帽子とはいえ、流石に耐えられなかったのだろう。

 …それは当然。麦藁帽子に限った話ではなく。
「うわっ…いないっ…!! ニョロ、プテ、ギャラ…!!!!」
イエローもレッドも、腰につけたベルトの中にきっちりはまっている携帯ボールは無事だ
った。元々、どれだけ緩そうに見えても、簡単にはボールが落ちたりしないように、ボー
ルを取る時には少々のコツがいる仕様になっているのが、トレーナーのポケモン携帯用具
に共通することだ。
 しかし、天災に対応するために出していたポケモン達は全員回収する暇もなく、レッド
達は海に投げ出された。ただピカチュウだけは、イエローに抱かれたまま気絶している。
どんな事があってもそれを離さなかった辺り、彼女の意思には密かに相当な強いものがあ
る。
「参ったなぁ…あいつら、多分無事だろうけど、見つけられるだろうか…この島の何処か
にはいるだろうけど、同じ所には着いてないみたいだし…」
うむむむむ…と、考え込んで腕を組み、頭をうならせるレッドの前で。
 …うぅーん…と、ようやく。イエローの体が動き、ゆっくりとその黒曜石のような黒い
目が開かれていった。

「……あれ? 君……誰……?」
「―? 何言ってるんだ、イエ…」
―と、そこで。レッドはようやく、イエローの視線の先。自分のすぐ後ろに立つ人間の気
配に気付いた。イエローはレッドではなく、その後ろの人間を見て言っているのだ。
 慌てて振り返ると、そこには。
「―って。えっ?」
そこにいたのは。黒い髪で黒い目をした小さな女の子……何故か、何処かで見たことのあ
るような気がする。
 そんな既視感が一瞬脳裏をかすめていった、自分どころか、イエローよりも更にいくつ
か年下であろう、幼い少女の姿だった。

「………」
少女はずっと、黙りこくっている。よいしょと起き上がったイエローと、唖然とした顔付
きで自分の方を見ているレッドに対して、黒いばかりの目を無機質に向けている。
「……?」
イエローとレッドは、2人で首を傾げる。ずっと黙り込みつつも、じっと自分達を見てい
る少女…少女はかなり硬い表情で、まるで何かの幻が、その場に突然映し出されたような
気がする程、儚い存在感をしている。迂闊に声をかけたら、消えてしまいそうで…………
そんな空気を期せずして、2人が共に感じ取っていた。

 どうしよう。2人が困ったように、顔を見合わせたその時だった。

「あ〜。陛下だ〜〜〜〜」

 場違いな程に、ゆったりとした明るい声が唐突に響く。それと同時に、急にレッドにし
がみつく人影があった。
「なっ!?」
「陛下〜〜〜♪」
突然背中からレッドに抱きついた人影は、どうやらレッドが少女の方に振り返ってから、
イエローの斜め後ろに来ていたらしい。なのでイエローもその存在に気付かず、この意味
不明な事態に対して、唖然とする事しか出来なかった。

 その黄色い髪の少年は。レッドの首元にまわしていた手をようやく緩めると、必死に背
後を見ようとしていたレッドと、呆然とするイエローに対して、華やかというよりは優し
い静かな笑顔で、嬉しそうに笑いかけた。
「君……達、は?」
「オマエら…何モンだよ?」
少年が少女の方へと駆けていく。少女の隣にちょこんと立って、あらためて少女と2人で
レッドとイエローのことを見る。少年はずっと同じ優しい笑顔で、少女はひたすら硬い顔
つきで。レッドはその少年を見て、ようやく、先程目が覚めたばかりの時に、自分を覗き
込んでいた黄色い髪の持ち主が少年であることを理解した。

「―えへへ。こんにちは、陛下」
「…………………………………」

 もしかしたら。少年の言葉に、レッドはとりあえず何かを思いつく。
「オマエ達…マサラの出身なのか? どうしてこんな無人島にいるんだよ? 親はどうし
たんだ?」
「マサラの…? どうしてわかるんですか、レッドさん? ひょっとしてあの子達、何処
かで見たことあるんですか?」
「いや、俺の事陛下なんて呼ぶのって、マサラの奴くらい………―って、あ゙」
「―!! レッドさん、やっぱり本当に…マサラの王様…!」
しまったー…自分の意志で隠していた事だったのに、うっかり自分で口を滑らせてしまっ
たレッドは、今更のように口元に手をやった。しかし時既に遅く、イエローは何故か目を
輝かせてレッドの方を見ている。

 そんなこんなで。これから少しの間続いていく、ドタバタしているようで何故かまった
りしつつ、やっぱりドタバタしている無人島生活の幕が、今、上がろうとしていた……。


--------------------------------------------------------------------------------
P.S.Legendary                                -漂流編-
--------------------------------------------------------------------------------


「それじゃ、お前達は…ちょっと前から旅行に来てたのが、保護者代わりの奴らと、この
無人島ではぐれたっていうのか?」
「うん〜。まず、爺やが何処かへ行っちゃって、それを捜して婆やもいなくなっちゃった
みたい〜」
ラグとネオ。ゆった〜りとした口調で喋り、また行動する黄色い髪の少年はラグ、ひたす
ら寡黙で何を考えているのかわからない、黒い髪の少女はネオと名乗った。一応彼らは双
子のようで、ラグが兄貴分、ネオが妹という感じだ。
「………」
保護者とはぐれた彼らは、とりあえず森を抜けて砂浜まで出たら、そこで倒れているレッ
ドとイエローを発見したらしい。
「レッドさん、ボク達でこの子達の爺やと婆や、捜してあげましょうよ」
「そうだな。どうせニョロ達も捜さなきゃいけないし、こんな小さい子、2人だけで放っ
てはおけないよな。ネオとラグはそれでいいか? 俺達と一緒にみんなを探そう」
膝に手を当ててかがみ、子供2人に目の高さを合わせて笑って言うレッドに、ラグはわ〜
い〜♪ と手をぱちぱち叩き、ネオは無言ながらも、わずかにわかる程度にうなづいた。
「でも………とりあえずは………」

 ……ぐ〜〜〜〜。期せずして場に鳴り響いたポピュラー過ぎるその音色に、うわっ…と、
イエローが顔を真っ赤にした。
「す、すみません…! あの、食料とか全部流されちゃって、そう言えば昨日から何にも
食べてないなって思ってたら…!」
「そうだよな。俺もそういえば腹ペコだった。まずは何とか、食べられるものを確保しな
きゃだよな!」
両手を組んでうんうんとうなづくレッドに、赤くなってかしこまるイエロー。
「わ〜い。お腹減ったよ〜、陛下〜♪」
「………」
ラグがレッドにまとわりつき、黙りこくっているネオは、気がつけばイエローのケープの
裾を掴んでいた。

「じゃ、森に入って何か探してみるか。ラグ、ネオ、俺達のそばから離れちゃ駄目だぞ」
「―ほら、ネオちゃん」
イエローが笑って手を差し出す。ネオはそれを、黙ったまま数秒間見つめた後……ためら
いがちに、裾を掴む手を放してイエローの手をとった。
「あ、イエローも! ラグ達に気を取られて俺から離れるなよ」
「はーい。レッドさんこそ、ラグ君につまずいてこけたりしないで下さいね」
笑いながら言うイエローの前で、確かにレッドは、腰辺りにしがみつくラグによって歩き
にくそうにしていた。
「それで〜陛下〜、何食べるの〜? 何食べるの〜?」
どうしてなのか、ラグはやたらに楽しそうだ。そんな兄に引き換え、ずっと寡黙なネオは、
つまらなそうなわけではないが…たまにチラリと、イエローを無表情で見上げては、目が
合う前に再びうつむいてしまう。照れ屋なのかとも思ったが、その表情の無い顔の陰に、
どうにも何か、気になるものが隠れているような気がして仕方の無いイエローだった。

「うーん……この島の海流は、最終的にはあの洞窟に流れ込んでるみたいだ…とすると、
砂浜に打ち上げられた俺達以外はみんな、あの洞窟の中って事かな?」
少し歩くとレッドは早速、島の半分以上を占める岩山の存在に気付いた。もしも砂浜に打
ち上げられていなければ、ポケモンはともかく人間であるレッドとイエローは、洞窟の岩
面に叩きつけられて酷い事になっていただろう。
「でもここからじゃ、あの入り口には、海を伝わないと入れませんね…」
そもそも入り口というより、岩山に開いた横穴にたまたま海水が流れ込んでいるようだ。
「だな。でも相当、水の流れもきついし、みんなを連れて海を渡れるポケモン達がそもそ
も行方不明だし…仕方ない、他の入り口を探すしかないな」
「そうですね……―?」
くいくいっと、ネオがイエローの手を引っ張っている。どうしたの? と聞こうとした瞬
間、それよりも先に、ラグがレッドの裾を掴んで言った。
「入り口、知ってるよ〜。俺達そもそも、そこから出てきて砂浜に着いたんだもん〜」
「―え!? じゃあラグ達はこの島、洞窟から入ったって事か? 爺や達ともそこではぐれ
たのか?」
レッドの問いかけに、えへへ〜と笑うラグの代わりに、ネオがコクリとうなずいている。
「それならその入り口、何処にあるのか案内してほしいな。ラグ君はそれが何処か覚えて
る?」
「わからない〜。でも、何か食べたら思い出すかも……お腹減ったよ〜、陛下〜〜」
あ、そうか…。あれからいくつか、野生の果物がなっている木などを見つけたはいいもの
の、どれが食べられる果物か全くわからない以上、とりあえず判断は保留にして、歩き続
けていたレッド達だった。

「えーっと…とりあえずピー助によると、これとこれは大丈夫みたいです、レッドさん」
様々な果物を前にして、手持ちの虫ポケモンの思いを読んだイエローが、数種類の果物を
「安全」としてピックアップしていく。それを見ていたラグは、わ〜♪ と、嬉しそうな
顔でイエローにまとわりつき、4人分の果物を確保しているレッドの方では、ネオがその
手伝いをしていた。
「しっかし本当、イエローのその力って便利だよなぁ……っと、これは虫食いがあるな」
ある程度の量を採取すると、後の問題は飲み水だった。元々自分達の分の必要量は、一応
旅人として当然ながら持ち歩いている。しかし今はラグとネオにそれを分ける事と、ポケ
モン達が見つかるまで、この島にどれくらいの間いるのかがわからない以上、何処かで飲
み水を調達する必要があるだろう。
「ま、それは別に食べてからでいっか。ひとまず、今は……」
砂浜に獲得した様々な果物を並べ、4人分のお茶を入れて、ついでに常に持ち歩いている
旅人用の乾燥食物も一部加えて、簡素でもそれなりに豪華なお昼御飯の始まりだった。
「いただきま〜す〜♪」
「…………」
とても嬉しそうに、珍しい食べ物をどんどんつまんでいくラグと、相変わらず無表情に、
それでもきちんと必要な量を、落ち着いた様子で口に運んでいくネオ。レッドとイエロー
はそんな2人の様子を、たまに顔を見合わせたりしながら見守りつつ、最近では滅多にな
かった、大勢での食事を楽しんだのだった。

                                       *

「……すっげー……何だこれ、一体……」
夕刻になり、飲み水とひとまずの寝床の確保をした後で、ラグとネオに連れられて洞窟の
入り口まで来たレッドとイエローは、思いもよらぬ事態に相対する事になった。
「これは……結界、っていうんですっけ?」
「ああ……だと思う。俺も滅多に見た事ないから、あくまで断言は出来ないけどさ…」

 洞窟の入り口は、一言で言うなら、光で覆われていた。その光が電流なのか炎なのか、
詳しい事はよくわからないが、とにかく何かの力によって入り口という入り口は封鎖され、
道は見えているのに前に進めないという状況になってしまった。
「もしもこの中に、ラグやネオの爺や達がいるとしたら……何かあって、何者かに閉じ込
められているとか、そういう危険があるのかもしれない…もしくは……」
ラグ達曰く、その爺やと婆やは相当強力なポケモントレーナーだという。とすると何らか
の事情で、この結界を張ったのは彼らだという事も考えられる。
「もうすぐ夜になるし…今日は一旦ひいて、対策を練った方が良さそうだな」
ついこの間、四天王に襲われた身としては慎重になるレッドだった。自分一人ならともか
く、今のレッドはイエローを護衛する身。更に言うならラグとネオという小さな子供を2
人も連れているのだから、これで無謀を通そうものなら、いくらポケモン達のためとはい
え、何かあった時に後悔しないわけがない。さすがのレッドも焦る心を抑えて、昼間に見
つけておいた、寝床に適する平地へと足を進めた。

「………」
段々と周囲が暗くなってきたので、レッドのピカチュウとイエローのラッタに先頭を行か
せ、レッドとラグは一番後ろを歩き、真ん中を歩いているイエローとネオを背後からずっ
と見守る形になっていた。
「………なぁ、ラグ。ネオっていつも、あんな感じなのかな?」
「ん〜〜?」
「いや……あれぐらいの女の子だったら、もっと笑ったり泣いたり、こんな状況なんだし、
不安がったり怖がったりしててもおかしくないのに。でも、何だか……」
あまりにも少女が無表情なものだから、まるで、感情が無いのではないか…先程からネオ
は、イエローと手を繋ぐ事に意外に固執していたり、何かあればレッドの陰に隠れたりと、
無表情だが無感情でない事は一応わかっている。それでもあの無表情っぷりは、最早個性
という範疇を越えて、尋常ではないのではないか。そう思わずにはいられないレッドだっ
た。
「う〜〜ん〜〜………何だかって、何〜?」
あくまで前の二人には聞こえないように、ラグも聞き返す。その辺りの気遣いがおよそ子
供らしくないと、一瞬レッドは思ったが、今は現在出ていた話題を優先させた。
「何だか……そうだな。俺から見たら、ネオって…何か、辛そうだなって」
「………」
「何かとても辛い事があって、それを必死に我慢してるから、緊張してる顔なんじゃない
かって俺には見えるんだ。……だからあれ、生まれつきなのか、それとも何かがあったか
らそうなのかなって…少し気になってさ」
本気で元々、無表情である事が性格なら仕方がないだろう。しかしそれが、何かあった事
でそうなってしまったというのなら、何が出来るわけではないとしても…通りすがり以上
の関わりを持った者として、気にならずにはいられなかった。

「………」
しばらく黙っていたラグは、心持ち少しだけ歩調を遅め、前を歩く2人と距離をとった。
「……ネオは元々、大人しい奴だったけど……笑わなくなったのは、母さんが死んでから」
「――――え?」
レッドは思わず、歩く足を止めそうになって、わずかにうつむくラグの横顔を見た。
「俺もちょっと、心配なんだけど……本当にネオは、ずっと、辛そう」
「………」
思っていたより、事は根の深い事態だったようだ。ラグはそれ以上何も喋らず、レッドも
あえて、追求はしなかった。
 …ある言葉が喉の奥まで出掛かって、それを抑えるのに少しだけ気力が要った。それを
口にしてしまうと、おそらくラグの足を引っ張ってしまうだろうと思ったのだ。ネオのよ
うな妹を持てば、きっと自分でもそうするだろう事…ある意味、男としての意地と言って
もいいかもしれない。

 ―後から思えば。この時もう少し、この2人の抱える問題に深く立ち入っても良かった
のかもしれない。全ては後の祭りではあるが……この後に待ち受ける少々激しい反則上等
な騒動を、今のレッドやイエローは知る由もない。


 そうして平地に辿り着き、簡単なテントもどきを作ってマントを布団代わりにし、レッ
ドとラグとネオとイエローが並んで眠ったその夜の事。

 イエローは、不思議な夢を見た。

―……ゴメンなさい……―

 それは誰の夢だったのか……どのポケモンの記憶だったか。

―もっとみんなと、ずっと一緒にいたかった…ゴメンなさい…―

 ………。どうして、謝るのかな。唐突にイエローはそう考えていた。
 この人は多分、ホントに謝りたいんじゃなくて……ただとっても、哀しいだけ。
 その心を誰かに伝えるのに、ゴメンなさい以外の言葉が見つからなかったのかな。

 でも、それは……果たして本当に、それで良かった事なんだろうか。


 その答えはきっと、この島の夜が明けるまで―――
 双子の空に朝が訪れるまで、わかる事はないのかもしれない。



To be continued.

PSL短編です。本気に久々更新です、お待たせ致しました。
一言の要望より、目指せほのぼの! 漂流編の前編開始です!
……。そもそも漂流って時点で、「ほのぼの」とは程遠い気もしますが…ははは…。
例によって攻略本を忘れ、双子島の構造がさっぱりわかりません; 間違いあっても見逃して下さい;

アンケート本当、皆様協力有り難うです! 全体の傾向や冷静な意見、とても参考になりました!
大まかな印象として、やはりPSLとはイエロー愛に支えられていたようです。書く方も見る方も(笑)
熱い感想や要望下さった人達とかも本当、ありがとです!!(>▽<)
日記で一応返信してたのですが、多分気付かれてないかと…なのでここで改めてお礼申し上げます。
今後のPSLは、とりあえずはこの話の後編と、これより他に、妙なものを書いたりもしています。
コレはPSL短編の一つですが、うちのオリジナル話『Atlas'』のキャラが出てきます。
こういう事は良くないとわかっているので、一応自粛していたのですが、
共演を一度見てみたいと……アンケートで言われてしまいましたよオクサン…!?
そんな事言われたらオネーサン書いちゃうよちょっと!(笑) 調子乗っちゃうよ!
流石に、これをマトモな更新物としてUPする勇気は無かったので、あくまでオマケ程度。
この忠告を読んでもまだ興味のある人だけ、コチラから見てやって下さい。
いつになるかは毎度の如く、本気の本気で微妙ですが; 後編でまたお会いしましょう〜☆