「……ええーーっ!? まさか、ラグとネオもポケモントレーナーなのか!?」
朝一番から軽快に響くレッドの驚きの声に、ラグはえへへ〜〜、ネオは無表情と、いかに
もこの2人らしい反応を返すだけだった。
 事の始まりはそもそも、いかに洞窟の入り口に張られた結界を突破し、ラグとネオの付
き人を探し、また自分達のはぐれたポケモンを探すか…という話だったのだが…。
「みんなのポケモンの力を合わせたら、解けると思うよ〜〜」
実にあっさりと言ってのけたラグは、自分とネオの持ちポケモンを次々と場に呼び出して、
レッドとイエローを唖然とさせたのだった。

「でも、中で何が起こっているかわからない以上、無理に結界を壊すのはまずくはないで
すか?」
例えば中で、何者かとラグ&ネオの付き人との戦闘が起こっていたとする。結界の存在は
どちらかの戦略に深く関わっていたとしたら、もしもそれが付き人側の切り札だった場合、
迂闊に壊してしまえば、取り返しのつかない事態になるかもしれない。その可能性を考え
ての、イエローの言葉だった。
「そうだよな……とりあえず、もう一度入り口まで行ってみて、他に何とか洞窟に入れる
ルートがないか探そう。―いいか、ラグとネオは絶対、俺達のそばを離れるなよ。いざと
なったらポケモンがいるって言っても、2人はまだ子供なんだからな」
後、これはイエローも含めてな! と、レッドは特に語気を強める。
「戦うのは基本的に俺に任せる事! イエローはラグとネオと、後自分を守るんだ。じゃ
ないと俺も集中して戦えないし、ラグとネオだって守りきれないかもしれない」
「……えーと。でも、レッドさん…」
張り切るレッドに、困ったような顔で微笑むイエロー。というのも…。
「レッドさん今、手持ちのポケモンが3匹しかいないのに…」
「――あ」

 ………。これからその残りを探しに行くというのに、レッドはすっかり、自分の戦力が
半分になっている事を失念していたらしい。イエローの方はオムナイト1匹が行方不明な
ので、やはり万全とは言い難いが、だからこそ戦うのは2人でと言いたいらしい。
「大丈夫だよ〜、陛下〜。俺とネオ、一緒だったら、自分達くらいは何とか守れるよ〜」
どうも、ラグとネオは個々では不完全なトレーナーらしく、2人揃ってやっときちんと戦
えるらしい。それはともかく、どうでもいいけどいい加減陛下ってやめてほしいなぁ…。
とは、次期マサラ王としてのレッドのご愛嬌。
「そもそもまだ、戦いがあると決まったわけでもないし…戦わないで済むなら、それにこ
した事もないですよ。まずはとにかく2人を守る事を優先して、お付きの人とポケモン達
を見つけ出しましょう」
やたらに冷静なイエローに、たはは…とレッドが苦笑を隠せない。確かに少し張り切り過
ぎていたようだった。更にはそれを、見事に表す結果として…。

「…え、何で?」
「結界……消えてますね……」
何故か洞窟の入り口では、昨夜までは確かにあったはずの結界が、忽然と姿を消していた
のだった。考えてみれば、もしも戦闘の策として使用される結界ならば、そんなに長い間
続く戦闘も珍しいので、一晩置いた時点で決着がついていてもおかしくはない。
 とりあえず結界の用途は不明なままだったが、こうして4人は難なく、洞窟に入る事が
出来たのだった。

 …そして。大丈夫でないのは、実はそれから先の事。

「って、ネオ!? 危ない!!」
「レッドさんー!?」
きゃあ、という声をたてる時間すらなく…落とし穴にはまったネオの手を掴み、ついでに
自分まで落とし穴にはまってしまったレッドは、何とかネオをかばいつつも、随分深い所
まで落ちていってしまったらしい。穴の上から中を焦って中を覗き込むイエローだったが、
最早声すら届かない所まで、レッドとネオは落ちていってしまったらしい。
「どうしよう…! レッドさん今、プテラを持っていないのに…!」
「んにー……多分、飛べるポケモンならネオが持ってるから、大丈夫〜〜」
ラグのその言葉を聞いて、少しだけほっとしたイエローだった。しかし…。
「追いかけようにも、ボクとラグ君を連れて飛べるポケモンは…ラグ君も、持ってない?」
「んにー……俺は持ってない〜」
残念そうに言うラグに、そっかぁ…と、イエローも困った顔つきだ。さすがに何の対策も
無しに、この穴に入ってレッドとネオを追いかけるわけにはいかない。自分一人なら何と
でもなりそうだが、こうなってしまった以上、イエローにはラグを守る使命がある。
 かと言ってここで待っていても、この穴の大きさでは、飛ぶ事が出来るポケモンを使っ
てレッド達が再び上がってくるのは不可能だろう。となると…。
「仕方ないか…ボク達は違うルートで、レッドさん達と合流出来る方法を探そう。行こう、
ラグ君」
「は〜い〜。………」
「―? ラグ君?」
穴から離れて、立ち上がったはいいが…何となく気まずい様子で、ラグは、歩き出そうと
するイエローの後ろ姿を、立ち止まったままちらちらと眺めている。
「―どうしたの? 行こうよ?」
イエローが笑って手を差し出すと、一瞬……ラグは普段の笑顔が嘘のような、戸惑いの表
情をちらりとだけ見せた。しかし次の瞬間には、にぱっと明るい笑顔になると。
 えへへ…と笑って、イエローの手をとり。本当に嬉しそうに、静かに笑って歩き出した。

                                       *

 時間は少々前後するが。一方、穴に落ちたレッド達はと言うと。
「あっちゃー……何か、随分深いとこまで落っこちてきたみたいだ……」
かばうように抱きかかえていたネオがとりあえず無傷なようで、ほっとしたのも束の間の
事。
「………大丈夫……?」
――え。一瞬レッドは自分の耳を疑った。
「………わたし、間に合った………? ラグがいないから……ポケモンを出すタイミング、
ちゃんと合ってたかどうか、よくわからない………陛下、何処にも怪我はない………?」
…喋っている。今まではただ、首を振るかうなずくかだけで、全く言葉を発さなかったネ
オが喋っている。しかもレッドの身を心配しているのか、あれだけ無表情だった顔に憂い
の陰りまでをも見せている。
「あーー……そっか、ネオが助けてくれたのか。さんきゅ! ネオこそ何処にも、怪我は
ないか?」
「………うん。……陛下が、守ってくれたから………」
しかし、呆然と感動している暇もなく。……更なる驚きがそこでレッドを待っていた。

 ガサガサ、バサバサ、じりじり、ドタトタ。何匹かのポケモンとみられる影がレッドと
ネオのいる所まで近づいてくる。おそらく突然の闖入者の気配を感じ取り、大急ぎで駆け
つけてきたのだろう……レッドは当然の如く、それらのポケモンの姿に心当たりがあった。
「―ギャラ、プテ、ニョロ!! それにオム助も!!」
どうやら全員洞窟の中に流れ着いていたようで、彼らなりに出口を探して揃って行動して
いたようだ。詳しい事はイエローがいないとわからないだろうが、穴から落ちてきたレッ
ドの気配を感じ取り、やってきたというわけだった。
「………そっか……みんな、疲れてるね………」
「―え?」
「………早く、ラグ達の所、帰ろう……回復してあげないと……」
「あ、ああ…そうだな……」
……その違和感の正体に、気付いてはいけない。普段のレッドならきっとすぐにわかった
だろう。しかし本当は何処かで、気付いてはいけない事に気付いていたのかもしれない。

 何はともあれ、無事はぐれたポケモン達と合流出来たレッドは、イエロー達と再び合流
すべく、ネオの手をひいて歩き出した。
「……………」
しばらく2人は無言のままで、おそらく洞窟の上層へ続くだろうと思われる緩やかな坂を、
ネオが無理しないでついてこられる程度の速さで歩いていた。
 さっきはあれ程喋ったというのに、再び黙り込んでしまったネオ。しかしその表情には、
確かにわずかに、柔らかさが混じっている。それは4人でいた時には決して見られなかっ
たもので、そのせいか思わずレッドは、一番気になっていた事を口にしていた。

「…なぁ、ネオ。ラグから聞いたんだけど……ネオとラグのお母さんは、もう亡くなって
るんだって」
「…………うん」
「ネオはそれから笑わなくなったって、ラグは心配してた。……それって……」
「―違う。本当に心配なのは、お兄ちゃんの方」
―え。
 今まで、やっと喋ったとは言っても、随分間をとってから慎重に言葉を選んでいたネオ
が、ほとんど即時にレッドに答えを返していた。つまりそれは、その事に関してそれ程彼
女が強い思いを抱いているという事…多分真剣に、ネオはラグを心配しているだろう事が
嫌という程伝わってきて、レッドは二の句が告げなかった。

「お兄ちゃんは…ラグはずっといつも通りで、1度も泣かなかった。お母さんが死んでか
ら、ラグは1度も辛いって言わなかった。ずっと、私やお父さんの事ばっかり心配してて
……ラグ自身の事は全然、心配してあげないの。そんなのって変だよ………辛くないはず
なんてないのに……哀しくないはずなんてないのに…………」



 ―同じ頃。ラグとネオの母親が死んでいる事を知ったイエローと、ラグの会話。
「哀しくないよ」
「……え?」
「強く生きろって、お母さんは言ったから。だから俺は、哀しくなんかない」



「お母さんは、ポケモン達をずっと助けて、それと引き換えに命を削ってしまった人…。
ラグは本当は、恨んでる。お母さんの命を奪ったポケモンも、命を削ると知ってても、ポ
ケモンに命を与え続けたお母さんを………私達と一緒に生きるより、ポケモンを助ける事
を選んで死んじゃったお母さんを」



 …………。
 ………パシッ。
「……!?」
イエローは思わず、ラグの頬をはたいていた。
「哀しくないはずなんて、ないのに………」
それは怒っているというよりも、本当に哀しそうな顔をして。
「そんな言い方をしたら、可哀想じゃないかっ…!!」
それは果たして、誰の事だったのか。少なくともラグには、こう聞こえたに違いなかった。

―哀しくないなんて言ったら、死んでしまったお母さんが可哀想―



「何だよ……俺達よりポケモンを選んだのは、母さんじゃないかっ…!!!!!」



「あっ……!!!」
突然、ネオがパタンと頭を抱えて座り込んだ。焦るレッドに一瞥もくれず、ネオは突然、
全ての持ちポケモンを場に出現させた。
「…行かなきゃ……ラグが、怒ってる……」
「ネオ…!!?」
先程自分達を助けたらしい飛行系のポケモンを駆って、洞窟の天井を突き破る勢いでネオ
は飛翔した。現われたポケモン達も全てそれに続く。
「待てよ、ネオっ!!」
レッドもプテラで慌てて後を追う。プテラが少々疲れているのはわかるが、今はそれでも
無理をしてもらうしかない事を、何故か瞬時に感じ取ったレッドだった。

「イエローが、危ない…!!!」

                                       *

 …それは一夜の遠い幻。有り得るはずのない現実と、可能性が全てを支配する世界。


―これ以上力を使えば、あなたはもう、長くは生きられない。それでもあなたは…―

 力を、使い続けるのですか。ラグの周囲でラグと共に、凄まじい怒気のオーラを放つポ
ケモン達から、イエローはそういった記憶を感じ取っていた。

―これは私の責務であり、望みであり、そして…私が生きてきた意味でもあります―

 ………一体これは、誰に対して言った言葉なのだろう。何て哀しい嘘だろう。イエロー
はそれが、その女性の完全な本音ではなく、半分は周囲と自身を納得させるために使った
詭弁である事が、嫌という程わかった。彼女だって本当は……死にたくなんか、なかった
だろうに。

「…―ネオ!?」
いつの間にか、ラグの隣にはネオがいて、怒気を放つポケモンの数も2倍に増えていた。
同時に駆けつけるレッドの気配も感じ、イエローは改めてラグとネオに向き直った。

 ポケモン達はラグの憎しみを感じ、それを引き起こしたイエローを敵として認識してい
る。あまりにも強い怒気はポケモン達から衝撃波すら起こさせ、強い風が吹き荒れる中、
立っているのもやっとだろうイエローは、それでも……わずかの恐怖も見せる事はなく。
 むしろラグに対し、厳しい表情で相対していた。

 ラグはそんなイエローには全く気付かない。ただひたすらに、自身から湧き出る抑えら
れない感情をイエローに向けるだけだ。
 その思いを受けて、ポケモン達が怒気を集結させる。その標的はイエロー一人に。ネオ
がどうやら仲介しているらしいが、あくまでこれはラグの意思である事が、イエローには
自然にわかっている。


「……母さんの、バカぁぁぁ………!!!!!」


 レッドも多分間に合う事はない。既に放たれてしまった力は、どれだけネオが止めよう
としても抑えられない。

「イエロー………!!!」

 それでもイエローは。自身に向けられた力に対し、全く怯む事も有り得ず……………。



「辛くないなんてウソをついたら………ラグの心は何処へ還るの――――――」



 放たれた力を全て、まるでポケモンの思いを読み取る時のように。
 そこにそれだけの怒りがあったのが嘘のように、全てを受け止め。
 そして何処へなりと、発散させ切ってしまったのだった。


 …呆然としていたレッドが、はっと我に返る。
「―大丈夫か、イエロー!?」
「ハイ。ボクは全然、何ともありません」
にっこりと笑うイエローは全くいつも通りで、本気でレッドは拍子抜けしてしまった。
「それより、ラグとネオが…」
イエローとレッドが駆け寄ると、先程まであれ程強いオーラを放っていたポケモン達は全
て気を失っており、そのポケモン達の中心でラグとネオも倒れ込んでいた。

「大丈夫か!? ……って……」
焦って2人を抱き起こそうとしたレッドの肩から、唐突に力が抜ける。というのも……。
「…寝てますね」
すー、すー……と、安らかそうな顔をして眠る子供2人。何かこの状況、つい最近何処か
であったような…と思いつつ、あまり深く考えない事にしたレッドだった。
「とりあえずポケモン達は見つかったから、外に出よう。俺達以外に人の気配もなかった
し、結界が解けてたって事は、2人の付き人がそれで外に出た可能性が高いしな」
「そうですよね。それじゃあ…」
イエローがドードーを場に出し、その上によいしょとラグを乗っける。レッドはネオを背
負って歩き出した。

 そんな一行の様子を、闇の中から静かに見守る影があった。影は何やら携帯機器のよう
なものを体の一部に取り付けているらしく、レッド達の移動に合わせて、気付かれないよ
う影も後を追う。その影はレッド達が洞窟を出るまで後についていたようだったが、やが
て地上の光が差すと共に、パタパタパタ……と、自らの主人の元へと帰っていった。

                                       *

「………あ〜〜〜。ちょっと怒ったらスッキリしたぁ〜〜〜♪」
開眼一番、開口一言。大丈夫なのかと心配するレッドとイエローに、問題ないと首を振る
ネオ。ラグは大きな欠伸と伸びをしながら、本当にさっぱりとした顔つきで、難なく自分
の手持ちのポケモンの様子を確かめている。
「………ラグはこういう、性格だから………」
無表情ではなく、明らかに諦めの入った冷めた顔つきで言うネオに、レッドとイエローは
たははと苦笑するしかなかった。

 そしてそんな一行の様子を、気付かれずに影から伺う事の出来るある場所では。
「……本っっっ当。心配かけるだけかけておいて、あれだけ勝手な事しちゃいけませんっ
て注意しておいたのに! 人を結界で足止めしたり、挙句の果てには2人で大暴走するだ
なんて…!」
何かの機器を握り締めて、そこから聞こえてくる話の内容に一喜一憂しては一人で激しく
疲れているらしい相方に、もう一つの人影は笑いながらも溜息をついた。
「しっかし、発信機だけでなく盗聴器で様子伺うなんて、オマエも随分手段選ばなくなっ
たよなぁ…本当……誰に似たんだか……」
「この期に及んで手段なんか選んでたら、私達いつ故郷に帰れるのかわかったもんじゃな
いじゃないの! ああもう…早くあの2人を何とか連れ戻して、無事に王様の元へ連れ帰
らないと……きっと今頃、気が気でない程心配しておられるに違いないわ…」
「んー、案外大丈夫なもんなんじゃねぇ? 何たってほら、アイツらあの年頃で、人を洞
窟に閉じ込めたりなんかしてくれる程の使い手達だし。何よりかにより……」
今現在、彼らがここに存在している理由それ自体……常識を遥かに越えた幼子2人のトレ
ーナー能力に、巻き込まれた彼らはひたすら苦労の連続なのだった。

「あ……」
ラグとネオがふと、木々の間にちょこんとおさまっているあるポケモンの影に気付いた。
その視線の先をレッドとイエローも見上げると、そこには……。
「あれは……ネイティ、ですか?」
「みたいだな……何か変な機械つけてるし、野生じゃないみたいだけど……」
ネイティはラグとネオだけを見つめ、ふいっと首を動かしてそっぽを向いてしまう。まる
でそれは、自分について来いとラグとネオに告げているかのような仕草だった。
「……あーあ〜…見つかっちゃった〜。……俺達、もう行かないと」
「―え? じゃあ、アレはラグ君とネオちゃんのお付きの人の?」
「うん。どうやらお迎えが来ちゃったみたい。……もう十分楽しんだし…そろそろ行くか、
ネオ」
「…………」
コクリとうなずく妹の手をとると、ラグは改まったような顔をして、妹と2人でレッドと
イエローに向き直った。

「…迷惑かけて、ゴメンなさい」
―そう、今にも泣き出しそうな顔と、消えてしまいそうな声で言う2人に。
 うん? と目を丸めるレッドと、ほえ? とキョトンとした顔を見せるイエロー。
「迷惑なんて何もかかってないよ? どうしてそんな事を言うの、2人共?」
その言葉には、何の無理も強がりもなく。ただひたすら自然な声で、イエローとレッドは、
もう少し一緒に冒険したかったね。と、2人に対していつもの笑顔であっさりと言った。
「ボクは楽しかったよ。子供を守るなんて当たり前の事なんだから、またいつか一緒に、
こうやって旅が出来るといいね」

 …その言葉は一体、どんな形となって2人の心には届いたのだろう。2人は1度互いの
顔を見合わせると、少しだけ哀しそうに目を伏せた後……思い切り笑って、
「うん! また一緒に遊ぼう!」
そう言って、何かを道具入れからゴソゴソ取り出し始めた。
「―? ……あれ?」
「ハイ、これ! 俺とネオの、大切な物……でも他に違うの見つけたから。これ、あげる」
それはイエローがこの島に流れ着いた時に、なくしてしまった麦藁帽子……によく似た、
イエローが持っていたものよりかなり色褪せて、羽の形も少し違う麦藁帽子だった。
「―もらっていいの? ラグとネオの大切な物なんでしょ?」
「大丈夫だよ〜。じゃ、行こ〜、ネオ」
「……」
何処か吹っ切れたような顔の兄に対し、ネオはほんの僅かだけ微笑んでコクリと頷いた。

 そうして駆け去って行く2人を、レッドとイエローはしばらくの間、姿が全く見えなく
なるまで笑って見送っていた。
「そう言えば…洞窟の中でやっと思い出したけど。ここって確か、双子島って言うんだ」
「え?」
「前にも1度、来た事があってさ。その時は一人だったけど…今回は偉く賑やかだったな
と思って」
明るい笑顔で言うレッドに、そうですねと同じ明るい笑顔を返すイエロー。
「マサラに帰ったらまた会えるかな……あの2人……」
 …と、ここで。
「―そう言えば、レッドさん! レッドさんってマサラの王様なんですか!?」
とっくに確認出来ていそうで、実は意外にまだ確かめていなかった事を、やっとイエロー
は思い出した。あー、それはー……とレッドが、照れ笑いまぎれに何とかマトモな返答を
しようとしていたところに。

「………―あれっ!?」
「………ええ???」

2人が去っていった方向で、何やら突然、何故か風がピタっと止んだかと思うと。レッド
とイエローが嵐に負けて、この島に漂着するキッカケとなった“世界の歪み”が再び表れ
ていた。
「あれ、あの時の………」
「やっぱり夢じゃ、なかったんですね……」
嵐の時と違い、辺りが静寂に包まれているせいか、不思議と嫌な感じはしない。レッドと
イエローはただ呆然と、魅入られるように……その歪みが消えてなくなってしまうまで、
双子島の空を見上げ続けていたのだった…。



END

どうもここまでお付き合いいただき、本当に有り難うございました。 ちなみにオマケの続きはこちらです。
バレバレかもしれませんが、一応双子の正体は公言はしません。 公言はしませんがどっかでちょろっとUPはしたりして
あくまでパラレルな世界の、ちょっとした出来心な趣味キャラクター。くらいで許して下さい〜(^^;)
ちょろちょろと話に関わったラグとネオの持ちポケモンも、あえて想像にお任せの領域です。
…決めるのが面倒くさかったというのもありますが(笑)、ポケモン知識がもう相当古い事もあり…。
今回の話のコンセプトは、ほのぼの→深刻に悩まないレッド&イエロー、みたいな所があります。
実際問題、最近ちょっと、PSL本編の2人の別人っぷりが嫌になっており…。
結局全然ほのぼのじゃないですが、少しはスッキリ書けたかな…と、ちらっと願ってます(笑)

ところでPSLの今後ですが。本当は一応これでネタ切れなんですが、ちょっと前に、
こういうの書いてみたいなーというのがわずかに頭をよぎったりしました。
もしも形が出来てくるようなら、5話構成くらいでUP出来たらなぁと思っています。
かなり不確かな感じで申し訳ないのですが、気が向けばまた様子でも見に来ていただけると嬉しいです☆